懐刀
翌日、俺は机に突っ伏していたところを、ダイヤに起こされる。
「シビル、初日から凄いやる気だね。そろそろ、朝ご飯だよ」
そう、笑顔で言う。いつの間にか寝てしまっていたのか。
ダイヤと共に、食堂に向かう。食堂は現在おばちゃん一人で切り盛りをしているらしい。
「あんたが新入りかい。しっかり食べな」
そう言って、パンと、野菜スープを椀に掬って渡される。味はいまいちだが、しっかり量はあるのが救いだ。
そして司令官は約束通り、朝食の席で堂々と宣言した。
「なんと、我が砦にヨルバ様から援軍が届いた。天才軍師のシビル君だ! あのヨルバ様お懐刀である彼が来たからにはもう大丈夫だ! 私は彼に指揮については全権を移譲する。今後は彼に従うように!」
と堂々と宣言する。
あれ、昨日の紙に懐刀なんて書いてましたっけ?
「すげえ! 遂にガルーラン砦にもまともな援軍が!」
「本当かよ……。こんな地獄の地に、胡散臭い」
喜ぶ声や、疑う声など様々だ。まあそれは当然だろう。
一方それを純粋に信じて喜んでくれる者も居た。
「シビル、天才軍師だったの!? 凄いねえ! 僕ここで死ぬんだろうなあ、って思ってたけど、希望が見えてきたよ!」
と隣のダイヤが輝くような目でこちらを見つめている。謎の罪悪感が……。
「任せとけ」
こうして、人は嘘に嘘を重ねるのです。
「……」
一方シャロンはただこちらを冷たい目で見つめていた。あれは疑っている目ですね。
だが、嘘を本当にするのが俺の仕事である。
早速動くとするか。
実は昨日、メーティスに夜通し尋ねたことがある。
『この砦を防衛するために重要な人材はシャロン?』
『イエス』
といったように、誰が防衛に必要か全員分尋ねた。
その結果はなんと二人、シャロンとダイヤだった。なぜか俺達新人が防衛において重要らしい。シャロンは難易度が高すぎる気がするが、やはり交流はしないと駄目だろう。
「ダイヤ、俺は誰も死なせずに、ガルーラン砦を防衛するつもりだ。そのために力を貸してほしい」
「勿論!」
と素晴らしい返事をくれた。良い奴だなあ、ダイヤは。
ちなみにシャロンは挨拶すら無視された。前途多難といえるだろう。
ガルーラン砦は現在、午前九時から二時までが訓練。間に昼休憩が三十分入るが後は自由時間と、自由時間が長い。大丈夫か、ここ。それに鍛錬ですら、出ない者が多い。ゴミ溜めの名は伊達じゃなかった……。なんてことだ。
二時まで軍師である俺は、ひたすら書物を読んだ。
そして二時以降、ダイヤと合流する。
「軍師として聞きたい。ダイヤのスキルは魔法使いか?」
「僕はスキルは前も言ったけど魔法使いだよ。土魔法なんだけど……」
魔法系スキルは軍でも出世の可能性が高い。なぜこんなところにいるのだろうか。
「シビルの言いたいことは分かるよ。なぜ魔法系のスキルを持っているのに、ここに飛ばされたのか? だろう。僕は土精製と、土変形の二種類の魔法しか現在使えないのさ。ただでさえ土魔法は火力が無い。この二つだけしか使えない僕はいつも軍の魔法学校で笑いものだったさ。そして遂には最後の砦にまで辿り着いちゃったよ」
とダイヤが自虐的に笑う。
土精製と、土変形? 砦にうってつけじゃないか?
だが、俺の沈黙をダイヤは逆の意味にとったらしい。
「シビルも僕のスキルを馬鹿に――」
「凄いじゃないか! その力なら砦を守るには最適だ! お前の力はきっと活かせる!」
俺はダイヤの両肩を力強く掴み叫ぶ。
「そ、そうかな」
俺の反応に面食らったのか、少し驚くダイヤ。
「ああ。穴作れるか?」
「それくらいなら簡単だよ」
ダイヤが地面に手をあてると、すぐに土が動き、穴が出来上がった。速さも素晴らしい。
「壁も作れるか?」
「勿論」
そう言って、ダイヤは一瞬で分厚い壁を作り上げた。触ってみるが、中々硬度も高い。これなら壁としても機能しそうだ。
「素晴らしい」
俺は感嘆の声を上げる。流石に軍の魔法学校で教育を受けていただけあって、中々の練度だ。
「そう言われると照れるな……」
「この砦を守るには絶対にお前の力が必要だ。頼む。皆のために、その力を貸してくれないか?」
「勿論さ、シビル!」
こうして、土魔法使いダイヤによる砦改造計画が始まった。
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