路地裏の華
路地の入口に、一人の少女が立っていた。
汚い路地裏には似つかわしくない美しい少女である。
腰まで届く美しい金髪がゆるく巻かれており、確かな知性を感じさせる赤い瞳をしていた。その整った面差しは、大人になる直前の可愛らしさと美しさが同居している。
身長は百六十センチ少しない程度であり、その所作には気品が感じられる。服装は白を基調とした服を纏い、腰にはレイピアを携えている。そして服の上からでも分かるほど胸元がふくらんでいた。
「これ以上の狼藉は見逃せないわ」
少女はそう言って、レイピアの先を男達に向ける。
「ぐっ! 騎士様か。しかもその服装は……」
男達の動きが止まる。だが、そのうちの一人が剣を構える。
「動かないで! 風弾!」
少女はレイピアを抜くと、突きを放つ。すると、その先端から風の弾丸が放たれ男の顔の横を通り過ぎ壁に命中する。そこには小さな丸い穴が空いていた。顔に当たっていたら、貫通していたであろう威力だ。
男達は互いに目配せをすると、頷く。
「ちっ、逃げるぞ!」
男達は四対一にも関わらず、一目散に逃げだした。どうやら、彼女の所属は有名らしい。
少女は先ほどの強い意志を感じさせる目から、優しい眼差しに代わると腰を下ろした。
「お兄さん、大丈夫?」
「ありがとう、助かったよ」
体中未だに激痛が走っているが、なんとか立ち上がり礼を言う。
「良い服着てるから、貴族の人?」
「いや、貴族なんかじゃない。今は只の冒険者だ」
まあ冒険者は今日なったばっかりなんだけど。
「そうなの? あまりいい服着てると狙われやすくもなるから気を付けてね」
そう言って、にっこりと笑う。弾けるような笑顔だ。この笑顔だけで、世界中の男達が恋に落ちるだろう。
「今日、体を張って学んだよ。シビルという」
「私はイヴ。今は、この町で警護をしているの」
「この町の騎士様か」
「……うん。そんな感じ!」
話していると、騎士というよりお嬢様にしか見えない。それほど、優しそうで、戦うより花の方が似合いそうだ。
「何かお礼を……」
「いいよいいよ! 騎士が町民を守るのは当然ですから。あ、そろそろ戻らないと! さよならシビル」
そう言って、イヴは去っていった。
「悪いことばかりじゃないねえ」
そう言って、笑う。ちなみに、五秒後壺が割れている事実に気付き、涙を流すこととなる。
その夜節約のために最安の宿に泊まる事にした。3,000Gだったのだが……。
「こんなの寝床って言わねえよ……」
渡されたのは、薄い毛布のみ。ただ床に寝転がって、大量の男達と雑魚寝である。一部屋に十人以上いる。
床は痛いし、盗みも怖いので全く落ち着いて寝れなかった。夜中、突然の環境の変化に涙を流し鼻を啜っていたら
「うるせえぞ、クソガキ!」
と隣に怒鳴られた。一刻も早くまともな生活をしなければ。俺はなけなしの財産を抱きしめて、冷たい床の上に寝転がっていた。
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