とりあえず煽っとく
シビルが部屋を出た後、五十代の男が老女に尋ねる。
「ヨルバ様、なぜあのようなお話を?」
「なに、婆さんの暇つぶしさ。ただのね。今はまだ普通の男さね。だけど、何か感じたのさ。これから何にでもなれそうなね」
「ヨルバ様がそこまでおっしゃるとは……私の目ではそこまで見極めることができませんでしたよ」
青年が驚いたような声を出す。
「まあ、どちらに転ぶかは私にも分からない。楽しみにしておこうかねえ」
ヨルバはそう言って、微笑んだ。
「ふう、緊張した。結果すぐに分かるって、聞いたけどどうなんだろうなあ」
俺は部屋から出た後、大きく息を吐く。休める場所を探して歩いていると、空き部屋から怒鳴り声が聞こえてくる。
「一言でいい。謝るんだ! そうじゃなきゃどうなるか分からんぞ!」
のぶといおっさんの声だ。だが、叱りつつもどこか心配している声だ。
「私は何も悪いことをしていない。謝るつもりは無い」
返事をしたのは凛とした女性の声だ。姿は見えないが、落ち着いて堂々とした声である。
「相手が悪いのは分かっておる。だが、お前もやりすぎだ。このままだと懲罰ものだ。どうなるか……。お前ほどの逸材が」
「話は終わりですか? では失礼します」
女性はそう言うと、空き部屋から出ると去っていった。顔は見えなかったが、すらりと伸びた美しい足とプロポーション、そして綺麗な銀髪が後ろ姿からもはっきりわかった。
何があったんだろう? この話だけだと、よく分からないな。俺は考えることを止め、廊下のソファに座る。
「終わった? お疲れ様!」
イヴが笑顔で走ってきた。相変わらず、微塵も落ちるとは思っていなそうだ。
「ああ。なんとか。合否はすぐ分かるそうだ」
「シビルなら大丈夫だよ! 私もデルクールとは違うところに赴任しそうなんだ。一緒だといいねえ」
「だな」
イヴに癒されながら、合否発表を待つとしよう。だが、それは長くは続かなかった。二人の護衛を連れた若い男がこちらに歩いてくる。
男は俺のことをまるで汚いものをみるような目つきで睨んだ後、イヴに笑顔を向ける。
「お久しぶりです、イヴさん。貴方はこの汚い軍において、まるで女神のようだ。このようないかにも弱そうな男にも大変お優しい」
男は金色の髪をオールバッグにしている。男はイブの手を掴むと、甲にキスをした。随分きざな野郎だ。
「おい、お前のようなもやし野郎が通る訳ないだろう。とっとと失せな。どうせイヴさん目当てで来たんだろう?」
のっけから失礼全開である。貴族だろうか?
「ちょっと私の友達に失礼なこと言わないで!」
「大変お優しいのは知ってますが、友人は選びましょう。ほら、あちらで私とローデルの未来について語りましょう」
男はそう言って、強引にイヴの手を掴み引っ張る。イヴの顔が僅かに痛みで歪む。
「おい、坊ちゃん。あんたの家じゃ女の口説き方は教えてくれなかったのかい?」
俺は男の腕を掴み、男を煽る。それを聞いた男の顔が怒りで歪む。
「殺されたいのか?」
「俺はまだ一般人だぜ、坊ちゃん。騎士がこんなところで一般人を襲っていいのか?」
一触即発の雰囲気が流れる。男は剣の柄に手を伸ばす。
あ、やばいかも……。
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