人々はいつだって英雄を求めている
別室に通された先に居たのは、三人の面接官だ。五十代の禿げたおっさんと、六十代の御婆さん。そして二十代後半の青年である。
皆、俺を鋭い眼光で見据えている。
「それでは面接を始める」
おっさんの、渋い声で面接が始まった。
「はい。シビルと言います。本日はよろしくお願いいたします」
「ベッカー子爵からの推薦状を読んだが、グランクロコダイルをこの戦力で討伐したというのは本当かね?」
やはりそれを聞かれるか! これは予想していた。俺は流暢に、経緯を全て説明する。俺のスキルは危機察知系のスキルだと既に聞かれていたようなので、話を合わせながら。
話を振って来るのは主におっさんと、青年だった。婆さんは話すことなく、ただ俺を観察している。
話を聞き終えたおっさんは、顎を触りながら呟く。
「なるほどな。危ない橋を渡りすぎではあるが……今できることを精一杯したことは素晴らしい」
おっさんからお褒めの言葉を貰う。いい流れだ。このまま終わらないかな? そう思っていたら、今まで話してこなかった婆さんが急に口を開く。
「ねえ、お前さん。貴族だったりしないかい?」
なっ!? 突然の問いかけに俺の貼り付けていた笑顔が崩れる。ばれている?
「あんたと同じ名前の貴族が最近廃嫡されたらしいんだよ。別の国の話なんだけどね。当主になるには弱すぎる臆病者って理由でね」
流石帝国……。これくらいの情報は勿論知っているか。とぼけるべきか?
『嘘はまずい?』
『イエス』
やはり嘘は吐くべきではないらしい。
「はい。それは私です。実家を勘当されましてここに辿り着きました。やはり他国の元貴族は入隊できませんか?」
それを聞いた婆さんはにやりと笑う。
「なに、正式に追い出されたのなら構わないさ。だが、あんたはいざというときに故郷を攻められるかえ?」
いやらしい質問だ。だが、この答えは決まっている。
「勿論。兵さえ頂ければいつでもロックウッド領を、アルテミア王国を滅ぼしますよ」
その覚悟を持って、俺はここに来た。いつか故郷と戦うことに、家族と戦うことになろうともそれも仕方ないと。
「中々たいしたたまじゃないか。別に復讐のために動いている訳でもないんだろう? それなのにこともなげに肯定するとは」
それを聞いた婆さんは感心したような顔をした後、笑う。
別に俺は自国にそこまで恨みがある訳では無い。だが、既にローデル帝国で色々な人と関わりすぎた。既に帝国の方に愛着があるくらいだ。
「情が薄いだけです」
「フフ。これは世間話なんだけどね。今帝国軍が求めているのは何だと思う?」
婆さんが無邪気な顔で尋ねてくる。そりゃあ強い人だろ。
「……強者? 強スキルの人?」
「違う。英雄さ。この帝国を再び大陸最強と呼ばせるようなね」
「随分、夢物語のようなことを言いますね」
「そう思うかい? 最近は隣国とも停戦状態さ。決定打にかけると皆感じている。人一人が増えただけじゃ何も変わらないと思うかい? けど何万人が戦う戦でさえ、本物の英雄一人でひっくり返ってしまうことが実際にあるんだ。圧倒的な才能、輝きに皆導いて欲しいのさ。あんたも英雄になれるように頑張りな」
婆さんは本当に御伽話のようなことを言い始めた。だが、言っている意味はなんとなく分かる。本物の英雄というものはきっと本当に一人で、その場をかえてしまうんだろうなあ。
「はい」
俺はただ頷くことしかできなかった。
「そういえば、あんた魔法使いかい?」
ふと婆さんが俺に尋ねる。
「いえ、聞いてると思いますが、危機察知系のスキルですよ」
「その割にあんた膨大な魔力を持ってるねえ。勿体ない」
「はあ」
思わず、素の声が出てしまう。昔剣の才能がないと気付いた後、魔法の練習もしたことがあるがさっぱりだった。才能が無かったので、魔力なんて測った事すらない。
黙って聞いていた、おっさんが口を開く。
「そ、それではこれで試験は終了だ。結果はすぐ伝える。外で待っているといい」
「はい。ありがとうございました」
こうして俺の面接試験は終わり、そのまま席を立った。
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