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これから

 この一撃は凄まじい生命力を持つグランクロコダイルをも仕留めることができたようで、もうピクリとも動かなかった。


「勝った……」


 俺は勝ちを確信していた。冷静になってくると、噛まれた右腕の痛みが襲ってくる。でも、もういいんだ。


「勝った! 俺達が、グランクロコダイルを、仕留めたんだ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は勝利のおたけびを上げる。俺はやり遂げた。この怪物を皆と共に討ち取ったんだ。


「流石だぜ、大将!」


「シビル!」


 ディラーとイヴが大鐘楼から降りてこちらへやってくる。イヴは涙ぐみながら、俺に飛びついてきた。


「もう、無理ばっかりして……! けど格好良かったよ。ありがとう!」


 その言葉だけで報われた気がした。今まで実家では俺がどれだけ頑張っても評価されることなんてなかった。だが、今は守りたい人から救い、感謝の言葉までもらえた。これ以上の贅沢があるだろうか。


「戦いは苦手かも知れねえが、誰よりも体張ってたぜ、大将。戦士として何よりも大事なハートを持ってる」


 ディラーも笑顔で言う。臆病者と言われた俺も少しは変われただろうか?


「私もそう思う。こんな土壇場でグランクロコダイルを倒す策も練れたんだもん」


「いや、それは『神解(メーティス)』があったおかげで」


「スキルも含めての才能でしょ? そうだ! ローデル帝国の騎士団に入らない? シビルはそのスキルでもっと多くの人が救えるよ!」


「え?」


 それはイヴからの突然のスカウトだった。この誘いが俺の運命を大きく左右するなんてこの時は誰も思わなかっただろう。











 決着から少ししてグランクロコダイルの様子を見に来た兵士達は、息絶えているその姿を見て驚きを隠せなかった。


「し、死んでいる! まさかお前達が!」


「俺達に決まってんだろ。上に伝えてきな。この化物を倒したのは、シビルとイヴだってな!」


 ディラーが言う。それを聞いた兵士達はすぐさま領主に報告に向かう。広場に居たレッドクロコダイル達は長を失ったせいか途端に混乱し始め、統率を失った。

 少しずつグランクロコダイルを討伐したことが広まり始め、皆の心に希望の火が灯される。後は逃げ遅れたレッドクロコダイルの討伐だけだ。レッドクロコダイルはD級魔物であり、兵士達でも戦う事はできるだろう。


 こうしてデルクールを襲った悪夢は終わりを告げたのだ。







 そしてデルクールはいまだ混乱しつつも、平穏を取り戻した。翌日、俺達はデルクール領の領主であるベッカーの館に呼ばれていた。おかげで昔着ていた貴族時代の服に袖を通した。


「お前達、なんか落ち着いてねえか?」


 ディラーが俺とイヴに言う。


「私は、一応親が貴族だから……」


 俺も一応親は貴族だからな。俺はもう違うけど。


「俺は顔に出ないタイプなんだよ」


「嘘つけ。まあいい。そろそろだ」


 呼びに来た兵士に連れられ長い廊下を歩く。武器は全て取られてしまった。どうせ俺では剣を持っていても一瞬でやられるだけだからいいんだけど。


「この先にベッカー様がいらっしゃる。くれぐれも失礼のないように」


 そして、他の扉より上等な扉に案内された。扉を開け中に入ると、高そうな革張りのソファに座っている穏やかそうな壮年の男性が居た。

 口髭は整えられており、にっこりとほほ笑んでいる。


「よく来てくれたね。こちらへ」


 男は向いのソファを勧める。


「私の名はベッカー。この町の領主をしている。君達がいなければこの町は危なかった。今回は本当に助かったよ。ありがとう」


 そう言って、頭を下げる。


「お顔を上げて下さい。お役に立てて良かったです」


 俺は頭を下げるベッカーさんに言葉をかける。


「いや、聞けばうちの兵にしっかりとグランクロコダイルが来ることを報告もしてくれていたそうじゃないか。そういう情報があったらしっかり報告しろ、とは言ってあったんだが……徹底されて無いのが現状でな。聞いていた兵士にはしっかりとしかるべき処分をするつもりだ」


 確かにあらかじめしっかりと軍が対応しておけばここまで酷い状況にはならなかっただろう。だが、いきなり謎のスキルの男からの情報ではしっかり対応するのも難しいだろう。


「シビル君。君はこの情報をあらかじめ知り、色々な所に伝えてくれたそうだね。各所が動かないことも見越して、自らも手を打った。君のスキルは素晴らしい。あらかじめ襲われることが分かればできることはたくさんある。そして、君の行動もだ。君は逃げることもできたはずなのに、この町のために戦ってくれた。領主として君には礼を言いたい」


 ベッカーさんは大真面目な顔で俺を褒めてくれる。どこか照れくさい。 


「そこまで言っていただけると頑張ったかいがありました」


「ディラーさん、イヴさんもだ。彼の情報を信じ、必死で戦ってくれたそうだね。君達にもしっかりと礼を送るつもりだ」


「それは助かるぜ」


「私は騎士として当然のことをしたまでですから」


「そうか。君は帝国騎士団所属だったな。流石皇帝の盾と言われるだけある。我が兵にも見習って欲しいものだ」


「ありがとうございます」


 イヴも恥ずかしそうに笑う。


「シビル君、君はまだF級冒険者らしいじゃないか。良かったら冒険者でなくうちに勤めないか? 君のスキルはきっと有用だ」


 なんとベッカーさん自らのスカウトである。俺、もしかしてモテ期なのか!? だが、それに異を唱える者がいた。イヴだ。


「お言葉ですが、シビルは帝国騎士団への入隊を希望しております。彼のスキルは帝国騎士団により多くの人を救えると」


 えっ!? 俺、帝国騎士団への入隊を希望なんてしてたっけ!? 初めて聞いたんだけど。それを聞いたベッカーさんもなぜか頷いていらっしゃる。


「なるほど。確かに彼ほどの才であれば、帝国騎士団でこそより輝けると言うものか。まことに惜しいが、彼の才をこの辺境の地で埋もれさせるのも忍びないが。ここは涙を呑もう」


 勝手に話が進んでいる……。そしてそれは過大評価以外のなんでもないんですが。メーティスさんもそこまで万能では無いんですけど。


「あの、お言葉は嬉しいんですが、私は戦うことが苦手で……。オークも倒せません。とても軍なんて……」


「大丈夫よ、シビル! 騎士団には軍師という役職があるの! そこなら自らは戦わずにとも皆を助けられる!」


 やばい、これ本当に俺が軍に入る流れだ。


「いや、そう言うことじゃ……」


「謙遜しなくても良い。私もしっかりと帝国軍に推薦しよう。未来の襲撃を全て読む天才軍師が現れたとな」


 確かに読めるかもだけど……。俺軍略なんて何も分からないよ。横でディラーが笑いをこらえてやがる。畜生。


「良かったね、シビル。領主の推薦ならまず落ちることなんてない! 一緒の騎士団ならいいね!」


 イヴは輝くような笑顔を俺に向けている。こんな笑顔を向けられたら、今更入りたくないなんて言えないじゃないか……。


 こうして俺はローデル帝国軍への採用試験を受けることになったのだった。

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[気になる点] みんなを助けるほどの力を持ってるのに謙遜するのは一種の嫌味よな。もっと自信持たないとな
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