物の価値は、誰が値段を決めるかにかかってるんじゃないの?
町にある露天通りに向かう。そこには五十を超える露店が様々な商品を販売している。勿論商品は玉石混交だろう。だが、俺にはメーティスさんが居る。
ちらりと近くの露店を覗く。
『この露店で、売値の二倍以上価値のある物はある?』
『ノー』
どうやらこの露店は適正価格か、ぼったくってるらしい。
続いて隣の露店を覗く。
『この露店で、売値の二倍以上価値のある物はある?』
『ノー』
ここもかよ。同様に、どんどん露店の商品価値を確認していく。だが、中々掘り出し物は見つからない。
確認したところ、ガラクタばっかだな。
『この露店で、売値の二倍以上価値のある物はある?』
『イエス』
「遂に来たか!」
シビルは露店前で大声を上げる。それを聞いた露天商が怪しい者を見るような目を向ける。
「どうしたんだい兄ちゃん?」
「いや、すまない。気にしないでくれ」
話をしながら一つ一つ価値を確認する。
『この商品は売値の二倍以上価値がある?』
『ノー』
『この商品は売値の二倍以上価値がある?』
『イエス』
メーティスが価値を認めた物は、人の頭ほどある壺だった。青い花がいくつも描かれている。
うーん、正直綺麗だと思うがただの壺にしか見えん……。
「兄ちゃん、お目が高いね。それはアルテミア王国で流行っている磁器さ。この青が綺麗だろう。2,000Gまけて10,000Gでいいぜ」
一瞬で値引きするな。これ残ってただろう。アルテミア王国に今まで住んでたが、聞いたことがない。怪しすぎる。
貨幣だが主要なのは
銅貨 100G
大銅貨 1,000G
銀貨 10,000G
金貨 100,000G
白金貨 1,000,000G
である。俺の全財産は銀貨九枚、90,000Gだ。ちなみに食事一枚が五銅貨、500Gほど。
『この壺の価値は50,000G以上ある?』
『イエス』
まじか。とりあえず買おう。
「オヤジさん、じゃあこの壺を買おう」
「毎度あり!」
露天商のオヤジから壺を受け取る。中々でかい。
詳しくメーティスに尋ねると、70,000Gほどの価値があるらしい。これを50,000G以上で売って、儲けよう。意外と楽に稼げるかもしれないな。
勝手に露店を開くのは駄目だろうし、買取をしている店を探すしかないか。この壺をずっと持って過ごすのは不便すぎる。
通行人に買取商の場所を尋ねる。
聞いたところ裏路地にひっそりとあるようだ。細い裏道を通り、買取専門の商店に辿り着いた。
「すみません、買取お願いしたいですがー」
「ん? その壺売りてえのか」
店番として立っているのは、筋骨隆々のオヤジである。店より魔物退治の方がよほど向いていそうだ。筋肉の無駄遣いといえるだろう。少しだるそうな顔をされた。
「はい」
「見せてみろ」
オヤジはしばらく見た後、俺に値段を告げる。
「7,000Gだな」
嘘だろ!? メーティスが間違うことは無い。おそらくその価値を正確に判断できていないのだ。
「これは70,000Gほどの価値はあるはずです。それは安すぎではないですか」
「あーん? 俺の目利きに文句つけるって言うのか? 何を根拠に言ってるんだ?」
それを聞かれると弱い。まさかスキルで鑑定しました、と言ってもまず信じて貰えないだろう。
「こ、これはアルテミア王国で流行っている磁器、です。あちらでは売れています」
「アルテミア王国でこんなの流行ってるなんて、聞いたことねえぞ。とにかく、こちらの値段で納得できねえなら帰んな」
しっし、と手を動かされる。流石に70,000Gの物を7,000Gで売る気にもならず、おとなしく店を後にした。
その後ももう一店舗回ったが、殆ど変わらない値段を提示された。あちらも、こちらもこの壺について正確に理解していないので仕方ないと言える。
「価値が正確に分かったとしても、それを説明できないと正確な価値で買って貰えないんだなぁ。知識もないし、商品を売り込む技術も無い。参ったな」
残ったのはおそらく価値がある壺だけである。早速俺のメーティス鑑定でぼろ儲け作戦がとん挫しようしている。冒険者ギルドでも買取はしているだろうから、最悪そこの世話になろう。価値の五割から七割くらいでは買ってくれるだろう。適正価格で売ることにこだわって大損するわけにいかない。
裏路地を歩き今後について考えていると、いつの間にか前後に怪しい男達に囲まれていることに気付く。
「よう兄ちゃん、あんたこの町初めてだろ。見た所まだ若いし、小さい騎士家系の次男坊あたりが、家を追い出されたか? 町は危険だぜ? なに命までは取りは死ねえ。有り金を全部出しな。服もだ」
モヒカン頭の男が、剣を握りつつ笑う。どうやら前後に二人ずついるようだ。
残念ながら、長男なのに追い出されたんだよ。
『勝てる?』
『ノー』
うーん、無慈悲。金を払うべきか? だが、今なけなしの金を奪われたらそれこそ死んでしまう。ここは逃げだ!
俺は後ろを向くと、全力で走り出す。
「坊ちゃんがよ!」
だが、後ろの奴等も弱くはなかったようで、あっさりと服を掴まれ引き倒された。
「痛てえ!」
「馬鹿が、痛い目見てえらしいな!」
そう言って、四人がかりでぼこぼこにされる。しばらくして気が晴れたのか、ようやく四人の暴力が止む。
路地裏とはいえ、大通りを通る通行人が見える。皆俺と目が合うと、目を逸らして去ってしまう。
「少しは懲りただろ。よし、金を探せ。服も剥いでいいぞ。良い金になりそうだ」
俺の服は貴族用の服なので、価値も高いからだろう。
もう全てを諦めて目を閉じる。
「――何をやっているの、貴方達」
その綺麗な声は、大通りの喧騒や俺のうめき声が聞こえる路地裏に、鈴の音のように響き渡った。
1Gは1円くらいでイメージしてください!
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