恐怖
西門付近は地獄絵図だった。いたるところで女子供の泣き声が響いている。兵士達の動きも統率が取れているとは思えない散漫とした動きだった。
「まじいな……。とっさの事態に弱いと思っていたが、ここまでとはな」
混乱している兵士たちを見て、ディラーが呟く。だが、悪い報告は続くものだ。
「白い自由民のリーダーがやられたぞ!」
悲壮感に満ちた叫び声が前方から聞こえる。白い自由民? 俺が首を傾げていると、ディラーが言う。
「白い自由民は、この町のトップであるC級パーティだ……」
C級冒険者が全く歯が立たずか……。逃げる領民をかき分けて、俺達は遂にグランクロコダイルの元まで辿り着いた。その姿を一目見ただけで分かる。奴が群れの長だ。それほどの圧倒的存在感を放っていた。事前に聞いていたより更に大きい。そして左目の一つは誰かにやられたのか、傷により塞がれていた。
「ありゃあ、明らかに普通のB級より強いぜ、大将。聞いていたよりも大きい。だいぶん長く生きてやがるな」
ディラーが長年の経験がそう告げるらしい。
あれ、もしかして五十年前にここを襲った個体と同じなんじゃ?
『あれは五十年前にデルクールに来たのと同個体?』
『イエス』
まじかよ。中々執念深いのね、あんた。
グランクロコダイルの前には大男が仁王立ちをしている。既に先客がいたようだ。
「よくも、ホーキンスを!」
立派な鎧を全身に纏った大男が、大剣を手にグランクロコダイルに襲い掛かる。グランクロコダイルの下には男の下半身だけが横たわっており、口は真っ赤に染まっていた。彼がリーダーだったのだろうか。
グランクロコダイルはぎょろりとした三つの目を動かし、大男の動きを捕らえる。そして次の瞬間、想像を超える大きな口を開き、一瞬で大男の上半身を食いちぎった。
目の前で行われた圧倒的暴力による蹂躙に俺の体が震えあがる。
こ、これが……B級! 王国の軍隊が相手をすると言われる怪物。俺は自分が一瞬で死ぬ戦場に来たことを自覚する。
大きな咳をする音が聞こえた。自分が過呼吸になっているのかと思うが、その音の主はどうやらデルクールの兵士だった。赤髪をオールバッグにした若い兵士が真っ青な顔で、グランクロコダイルを睨んでいる。過呼吸を引き起こしており、まともに戦えるとは到底思えない。
「俺は、俺は……お前のことなんて何も、知らない。何も聞いていないんだああ!」
赤髪の兵士が叫び声をあげながらグランクロコダイルに突撃する。
「やめろ!」
俺の叫びも虚しくグランクロコダイルが彼に襲い掛かる。
「ひいい!」
だが、恐怖に襲われた彼はすぐさま動きを止めた。が、逃げ切る事は出来ず、左腕を食いちぎられてしまう。
「ああああああああああああ! 助けてくれえええ!」
真っ青な顔で悲鳴を上げながら、彼はそのまま一目散に逃げだした。
物語は佳境へ。
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