閑話 メロウの休日
「メロウも疲れただろう。数日、ゆっくり休むと良い」
シビルにそう言われ、メロウは数日フリーとなった。
「そう言われてもなあ。まあ、せっかく自由に動けるようになったんやから、町でも探索するか」
黒いワンピースを纏い、大きな帽子を深々と被ったメロウは町へ出た。
色々楽しい所を回るも、どこか一人では味気ない。
(あかんなあ。シビルは忙しそうやし。久しぶりに円盤投げでもしよかな!)
円盤投げとはメリー族に伝わる伝統的な遊びで、円盤型に削った木を投げた後、念動力で自由に動かすという遊びである。
メロウは町を出て、広い草原に出た。
「こういう景色が落ち着くのは、田舎者やからやろなあ」
メロウは木を削り円盤を作った後、それを投げる。
「それを左右に揺らす!」
明らかにおかしい、ギザギザな動きをする円盤。
「それを止めて、上空に!」
突然止まった円盤が、急上昇する。
「腕は鈍ってへんなあ」
メロウはそれを縦横無尽に動かして、楽しんでいる。
「あらあ、凄い動きねえ」
そうのんびりした口調で言ったのはフリルのついた可愛らしい服を着たお婆ちゃん。
(ばれてしもた!)
突然現れたお婆ちゃんに動揺するメロウ。
「メリー族なんて珍しいわねえ」
とニコニコしながら言った。
「……怖くないんか?」
「怖くなんてないわよ。昔一緒に働いてたんだから。メリー族にも良い人はいっぱい居たわ」
お婆ちゃんは笑う。
お婆ちゃんは昔デミ聖国で働いていたが、ローデルの男性と恋に落ちて、ローデル帝国にやってきたらしい。
「そう言えば、最近メリー族の引渡しの件でデミ聖国とここは揉めていたわね。もしかして、そのメリー族は貴方のことかしら?」
「そ、そうや」
メロウはなんとなく後ろめたさを感じながら返答する。
「噂のヒロインね。羨ましいわあ。自分のために、剣を持って戦ってくれる人が居るなんて。、まるで絵本の物語みたいじゃない」
とお婆ちゃんはころころと笑う。
「そんなええもんちゃうよ。多くの人が犠牲になったんや」
「犠牲があったのは事実かもしれないわね。けど、それでもあなたのために戦ってくれる旦那さんが居るなんてすばらしいことよ」
その言葉を聞き、メロウは真っ赤になる。
「旦那さんって!? そんな関係ちゃうよ!」
「あら、そうなの? なら猶更大事にしないとねえ。そんな人、もう現れないかもしれないわよ」
「だ、大事にはする。返しきれないほどの恩があるからな」
「そんな固いこと考えなくてもいいのよ。抱き締めてキスをするのよ。それがお姫様の礼よ!」
口元を抑えながら、お婆さんはにこやかに言う。
「キスって……! そんなんして嫌がられたらどうするんや」
「こんな可愛い子にキスされて喜ばない男は居ないわよ、うふふ。よし、私が秘伝の技を伝授してあげます」
動揺するメロウに、お婆さんに小さな声で何かを伝えた。
その日の夜、夜まで仕事をしていたシビルが疲れをとるために風呂に入る。
「これだけが楽しみだよ」
流石に領主の風呂であるため、何人も入れるくらい大きい。
シビルは贅沢だと思ってはいるが、これだけは役得として受け入れていた。
シビルは幸せそうな顔で温かい湯に浸かっている。
「は、入るでぇ」
そこに突然、メロウが現れる。体にはタオルだけ巻いた状態である。
「な、な……!」
突然の登場に動揺するシビル。
一方、メロウの顔も真っ赤であった。
「お、お礼や! お礼! 背中ぐらい洗わせてーな」
「お礼って、お前……」
そう言う割に顔真っ赤だぞ。
誰かに操られているのでは?
『メロウは誰かに操られている?』
『ノー』
どうやらそういう訳ではないらしい。
「いいから早く、こっち来てや! 洗うで!」
真っ赤な顔で言うメロウに気圧されたシビルは、おとなしく風呂から上がる。
ごしごし。
シビルの背中を洗う音だけが浴場に響く。
「ありがとうな、色々。ありがとうだけじゃ、伝えられへんわ」
メロウがしみじみと言う。いつの間にか、顔色も元に戻っており落ち着いてきたようだ。
「どういたしまして。お礼はいいんだけど、無理はしなくていいんだぞ?」
「無理なんてしてへん! そう、これはメリー族の文化や! 世話になった人の背中を洗うのは」
『お世話になった人の背中を洗うのはメリー族の文化?』
『ノー』
思い切り嘘じゃないか。
突然なぜこんなことをやりだしたのが不思議だ。
「これからはうちがこの力で守ったるからな」
「それは心強いな。頼りにしているよ、メロウ」
「任せてやー。ほら終わったで」
体を洗ってくれたメロウが体の泡も流してくれた。
「ありがとう。そろそろ出るか」
そう言ってシビルが立ち上がった時、メロウのタオルが解ける。
それによって、メロウの美しい肢体がシビルの目の前に広がる。
シビルの目は、メロウの体に釘付けになった。
「え?」
「え?」
「シビルのスケベェーーーーーー!」
叫び声とともに、メロウの念動力がシビルを襲う。
念能力により吹き飛ばされたシビルは、全裸で壁に叩きつけられた。
(この力で、俺を守るんじゃ……なかったのか?)
シビルは朦朧とした意識の中でそう思った。
(やってしもた……! けど、シビルも悪いんや。思いっきり見られた……!)
メロウは顔を真っ赤にして、急いで風呂場を去った。
数十分後、シビルが戻ってこないことに気付いた文官によって発見されるが、デミ聖国からの刺客かと疑われ、しばらくシビルの護衛の数は増やされることとなった。
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