エピローグ
「あの男は!?」
広場に現れたのはゴルデンで孤児院を運営していたアデル神父だ。
アデル神父を見たランダルは口を開いたまま固まった。
「アルフレッド大司教様と……メリー族!?」
アデルもといアルフレッドの横にはメリー族の男性が立っていた。
「久しいな、ランダル……辛い役目を押し付けた。今は大司教でもなんでもないただのしがない爺だ。だが、ただの爺でもやり直したことはやらんとな」
アルフレッドはそう言うと、広場の台座に上がる。
それを遠くから隠れて見ていたクレイが大声を上げる。
「奴をさっさと叩き出せ! 今はただの老いぼれだ!」
「黙れ、小僧!」
アルフレッドの一喝に、クレイはびくりと体を震わせる。
台座を守る聖騎士達もアルフレッドをどうしてよいか悩んでいた。
現大司教であるクレイの言葉を聞くのが正しいのは分かっている。だが、長年の間大司教として君臨していたアルフレッドに、そのような行為をすることが憚られたのだ。
広場に集まる者はアルフレッドのことを皆知っていた。
大司教のトップを何十年も君臨していたアルフレッドが突然失踪したことは、聖国の中でも大きなニュースとなっていた。
その伝説とも言える人物が現れた皆は静かに、アルフレッドの言葉を待った。
「今ランダルが話したことは全て事実だ。私の時代にやっていたことだからな。実際にその時代に聖国に居たメリー族が彼だ」
その言葉を聞いたメリー族が口を開く。
「実際に暗殺していた俺が保証しよう。大司教の一人クレイ、先代聖女カトレアの命によりこの手を穢した。今更言い訳する気もない。全ては平和のために、そう思っていたが許される行為ではない。だが、その手を穢していない同族までが、殺されることはもう終わりにしてほしい。そのために俺は今日この場に立ったのだ。お前も知っているよな、クレイ。俺に命令を下した張本人なのだからな」
彼はクレイの方を見て話す。
それによって、多くの国民がクレイの方を見た。
クレイは汗をかきながら、顔を大きく歪める。
「くそっ……私まで巻き込みおって! そうだ! すべては正義のために、メリー族と我等は歩んできたさ! だが、この事実は他の大司教も皆知っていることだ!」
クレイはやけくそ気味に叫ぶ。
「ふざけるな、クレイ!」
「お前こそ人殺しだ!」
国民がクレイに石を投げつける。
「くそ共が! 聖騎士共、こいつらを排除しろ!」
クレイの言葉を聞き、周囲を守っていた聖騎士達が国民を鎮圧する。
「俺達も殺すつもりだぞ!」
聖騎士に逆らうように国民達が襲い掛かる。
それにより広場に暴動が起こり始めた。
「ここまで広がったらもみ消すのは不可能だな、聖女さん」
俺の言葉を聞き、ロズウェルは睨みつける。
「あんな老骨をよく連れてきたわね」
不愉快そうに呟く。
「聖女と言われているが、あんたの目は濁りすぎているな」
「ふん。スキルに人生を決められるなんてごめんだわ。とっとと私を解放しなさい。約束は果たされたのだから」
「分かっているさ。お前はここにそのまま置いていく。時期に救助がくるだろうさ。それまでに俺達は逃げさせてもらうよ」
「次会ったら、殺してやるわ」
俺達は宿から出ると、アルフレッドさんの元へ向かう。
俺は事前にアルフレッドさんと知ったうえでアデルさんに依頼をした。
一人の告発では駄目だったのだ。複数人に認めさせ、多くの人にそれを伝えることが必要だった。
広場から離れた待ち合わせ場所に向かうと、そこにはアルフレッドさん、メリー族の男性と共にランダルも居た。
メロウの姿を見たメリー族の男性が息を呑む。
「君がローデルに居た同族か……? 父は?」
「ジルです」
「……そうか。ジルの子か。奴の子がこんなに立派になったんだな」
男性は微笑むように笑う。
「おっちゃんもグロリア領に来てや。シビルは差別もしないし、私も助けてくれた。きっとおっちゃんも住みやすい場所やから」
「ああ。きっとそうだろうな。指名手配されているメリー族のために全てをかけて隣国と戦争するような男だ。だが、俺のように手を汚した奴が行っちゃだめなのさ。どこかに潜むメリー族はこれからようやく自由になった。俺達のために命を張ってくれたグロリアの名は決して忘れない。もし同族が行った時はよろしく頼みます、シビル様」
男性は深々と頭を下げた。
「必ず」
「良い人を見つけたな。俺は再び人里から消えるよ。さらばだ、ジルの子よ」
男性はそう言うと去って行った。
ランダルは俺を見ると、まるで気安い友人のような仕草で声をかけてきた。
「君が、シビル君か」
「初めまして、ランダル大司教。聖女はお返ししますよ」
「頼むよ。あんなのでも聖女なんだ。いないとうちは回らない」
「あんなのとか言っていいんですか?」
「あいつはあんなので十分さ」
「これから聖国内部は荒れるでしょうに、笑顔ですね」
「なに、必要なことさ。ようやく話せた。すっきりしたくらいさ。新米子爵が一人の少女のために、国相手に戦争をする。その覚悟に敬意を。不敗のシビル、貴方に神の導きがあらんことを」
「神はメーティスしか信じていないんでね」
俺はそう言って笑った。
◇◇◇
聖国ではないとある国のどこかに一人の老人が居た。
長く真っ白い髭を三本に括り、仙人のような姿をした老人デリンジャー・アイゼンバーグである。
「まさか仕留め損なうとは。一キロ離れたうえでの一撃だったのに。シビルと殺害は失敗じゃなあ。これほど大きな舞台を用意したというのに。あのスキルは厄介すぎる。早く殺さねば計画に支障が出る。次はどうしようかのう」
デリンジャーは今後について考える。
世界的犯罪組織六翼の第五翼を担うデリンジャー・アイゼンバーグ。
その視線はシビルに向いていた。
9章はこれで終了です。
ここまで読んでくださった方全てに感謝を!





