会議は踊る。されど……
砦の様子がおかしいことに気付いたデミ聖騎士団副騎士団長ハーディが砦に戻った時、既にそこに聖女も騎士団長も居なかった。
騎士団長の装備していた鎧だけが灰の中に残されていた。
そこから聖女は捕縛されたという伝令が伝えられる。
セレン、ロズウェル、グリムの三人のトップの不在は、ハーディが白旗をあげるには十分の理由だった。
「ハーディ様、人数はまだこちらが上回っております。全軍で向かえば救出も」
「馬鹿を言え。セレン様はおそらく白銀にやられた。グリム将軍もヘルクとの戦闘後姿が見えなくなったと聞いている。その上ロズウェル様まで失えば、聖騎士団は事実上解体だ。なんとしてもロズウェル様だけは生きてもらわねば困る」
ハーディは頭を抱えた。
デミ聖国における覚醒者はセレンとロズウェルのみ。そのうち一名が死亡、もう一名が行方不明。既に戦力的には半分以上削られているとハーディは考えていた。
「敵は即刻の全面降伏と……他にも求めております」
「……何をだ?」
「メリー族に関する真実の公表を望むと。メリー族はデミ聖国に雇われていた種族であり、デミ聖国が裏切って指名手配した事実の公表と、指名手配の廃止も大々的に発表しろと言っております。いかがなさいますか?」
ハーディもメリー族に関して、それが真実であることは知っていた。
個人的には可哀想とは思うが、それだけで動けないのが現実であった。
「大司教様に指示を仰ごう。全面降伏は認めると伝えてくれ」
ハーディはすぐさま全軍を引き上げ、大司教に聖女が拉致されたことを告げた。
唐突の知らせに、大司教達は再び円卓に集まることとなった。
「ふざけるな! 何が真実の公表だ! 無視で構わん!」
そう真っ赤な顔で叫ぶのは、クレイ大司教。
この戦争を支持していた男である。
「あんたの自慢の聖騎士団は半壊だ。団長は死に、聖女は捕らわれどう責任を取るつもりだ? ここで聖女まで殺されたら聖国は終わりだ」
クレイ大司教を睨みつけるのはランダル大司教。
「ぐう……だが、あの事実をいまさら公表などできん。聖国が政敵を暗殺をしていたなんて、とてもじゃないが……。グリムになんとかさせられんか?」
「グリムは未だに姿を見せん。あ奴のことだ、死んではおらんだろうがな」
ため息をついたのは沈黙を守っていたゲベート大司教である。
その後も生産性のない議論が続く。
皆、公表せねば聖女が死ぬため、公表が必要なことは理解しているものの、メリー族の真実の公表に踏み切れなかった。
「なぜこうなってしまったんだ……一人のメリー族を捕える簡単な話が、聖騎士団長の命まで失うことになるなんて。敵将はローデルの若造二人だろう? なぜあの二人が破れたのだ」
クレイは呻くように呟く。
「こちらの愚かな行動が虎の尾を踏んでしまったようですな。セレンを仕留めた聖騎士はまだ十代と聞いています。シビル隊の副隊長をしていると」
「そ奴をなんとかして次期聖騎士団長にできんだろうか?」
「寝言は寝て言え! 後二日後までに公表しないと聖女が死ぬんだぞ! 罪を償う時が来たのだ!」
クレイの言葉にランダルが怒鳴る。
「ラ、ランダル。君の言う通りだ。そんな君にお願いがあるのだが、発表してもらえないだろうか?」
クレイが目を逸らしながら言う。
その様子にランダルはため息を吐く。
この期に及んでもまだ保身を考えているのかと。
「分かりました。私の口から二日後発表させてもらいます。よろしいですね」
皆、無言で目を逸らしている。肯定はし辛いのだろう。
ランダルは再度ため息を吐くと、そのまま円卓の部屋を出て行った。
一人一人円卓を青い顔で出て行き、クレイとゲベートの二人が残った。
「クレイ大司教、本当に発表させるつもりかね? あんな事実を……」
「ゲベート大司教、安心してくだされ。一度公表後聖女さえ救出できれば後はランダルの独断での虚偽発表とでも言ってランダルを処分すれば良いだけの話です。証拠もなければ、証人も居ないのですから」
その言葉を聞いて、ゲベートは笑う。
「なるほど。既に証人は墓の中という訳ですな」
「そういうことです。国民など愚か者しかいないのですから」
こうして、様々な思惑は絡みながらも、公表の日を迎えることとなる。
不敗の雑魚将軍第2巻遂に本日発売です!
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3巻の有無がこれで決まりますので(; ・`д・´)





