忘れたんか?
「セレン? 何も悩むことはありませんよ。大いなる正義のために、少数のことが罰されることはあります。一万人を救うために、時に一人を切り捨てることは必要なのです。大局のために、貴方は彼女を斬るのです。それこそが正義ではないですか?」
少し悩んだそぶりを見せたセレンがメロウを見据える。
「だが、お前達メリー族が殺したのは事実! 人を殺したのならば、殺されても仕方なるまい!」
セレンは自らに言い聞かせるように言うと、メロウに向かって襲い掛かる。
その一撃はシャロンが受け止める。
「お前のやっていることと何が違うんだ?」
「私をただの人殺しと一緒にするなああああああああああ!」
セレンは絶叫すると、剣をやみくもに振り回す。
「メリー族も正義のためと聞き、やりたくもない殺しをしていたのだろう。正義の御旗のもとに気に入らない人を殺しているお前と、どちらに正義があるかな?」
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
恐るべき連撃であるが、傷も深いうえに怒りに身を任せているため隙だらけであった。
「自分の過ちを認めることができずに狂ったか。愚かな奴だ。もう終わらせてやろう!」
シャロンはそう言うと、重めの一撃でセレンの大剣を大きく弾き、腹部に突きを放つ。その一撃はセレンを鎧ごと貫いた。
「ガッ……!?」
セレンは力を失い、その場に倒れ込む。
明らかに致命傷であることが分かる。
だが、セレンはまだ諦めていなかった。体を引き摺って、ロズウェルの元へ動き始める。
「こちらには、ロズウェル様が、居る。ロズウェル様、回復を……。は、やく……」
ロズウェルはセレンの元にかけよりしゃがみ込む。
俺はセレンが何かしようとした瞬間、すぐに射ることができるように矢を番えた。
「セレン、ここまでの重傷は流石の私でも治癒できません。ごめんなさいね?」
「そ、そんな……! ロズウェル様なら可能なはずです! どうか! ご加護を!」
「もう死ぬ役立たずにかける魔法はないってこと。さよなら、愚かな団長さん。讃美火」
ロズウェルの言葉と共に、セレンが火に包まれる。
「がああああああああああ! なぜです、ロズウェル様あああ!」
ロズウェルにしがみつこうとするセレンを、ロズウェルは蹴り飛ばす。
「私、馬鹿は嫌いなのよね」
やがて動かなくなったセレンを尻目に、ロズウェルはこちらを見る。
「では、騎士団長の仇を討とうかしら?」
「救えねえなあ、お前」
俺は睨みつけながら、そう言った。
「私は救う側ですので。ふふ、下が騒がしいわね。騎士達が気付いたんじゃない?」
扉が開き、どんどん騎士達が現れる。
「セレン様が……! 奴等を殺せーーー!」
「ちっ! 扉から来る敵は私が抑える! 早く聖女を捕えろ!」
シャロンは敵兵の前まで一足飛びに距離を詰めると、その大剣で叩き斬る。
「付与矢・【迅雷】!」
俺は魔力を込めた矢で、ロズウェルを狙う。
「絶対聖域」
ロズウェルが杖を天に掲げると、ロズウェルを囲うように地面が光り透明な壁が生まれる。
その壁は俺の一撃を受けても、びくともしない。
「私を誰だと思っているんですか? 聖国を代表する聖女ですよ? なぜ私の近くに護衛が居ないと思います? 誰も私を傷つけられないからですよ。貴方も、そこのメリー族ももう終わりです。数千を超える騎士に囲まれ、死ぬのです」
「メロウ、待ってろ。すぐに俺があの壁をぶち抜いて――」
だが、メロウは俺の前に出る。
「シビル、ありがとう。シビルならなんとかしてくれるかもしれん。けど、こいつは私が戦わなあかんねん。私自身の力でメリー族にかかった呪縛を解き放たないとな」
メロウは落ち着いた顔をしていた。ただ真っすぐにロズウェルを見ていた。
「貴方如きでは私に傷一つつけることはできませんよ。ここで死んで、メリー族の歴史に幕を下ろすのです」
どうしたら良いんだ?
俺は背後を見る。
背後はもはや数えきれないほどの敵が階段を埋め尽くしている。それをシャロンが無理やり堰き止めている状態だ。
あの壁が破れるまで射続けるしかないのか?
そう焦りながらメロウの方を見ると、堂々としたメロウの姿があった。
「あんた、忘れたんか? あんたの前に居るのは、あんた達に利用された、暗殺の得意なメリー族やぞ!」
メロウが両手をかざすと、ロズウェルの顔が歪み、その手で首を抑える。
「こ、この力は……念動力!?」
ロズウェルの首がメシメシと音を立てる。
「その力……絶対聖域ですら通り抜ける、なん、てね」
「あんた達が利用した力、しっかり味わえ!」
段々苦しそうな顔に変わるロズウェルが怒りの形相で杖を構える。
「ぐっ……罪の鎖」
ロズウェルの杖から輝く鎖が現れ、その鎖がメロウの首に巻き付く。
「この……!」
鎖がメロウの首を締め付け、メロウの顔が青く染まり始めた。
「貴方は私が、直接殺して、あげる……! さっさと死ね……!」
メロウの顔が痛みで歪むが、決して念動力を止めることはない。
「こんな痛み……いくらでも耐え、たるわ。メリー族の受け、た痛みに比べたら、こんなもん痛みとは言え、ん! 舐める……なあああ!」
二人が血走った目で睨みあいながら、締め付け続けた後、一方がばたりと倒れた。
先に倒れたのはロズウェルであった。
「げえっ! ゲホッ、ゲホッ!」
メロウは泣きそうな顔で、咳き込んだ後、こちらを見て笑う。
「どうや? 凄いやろ?」
「ああ。凄いよ、メロウ!」
まさか本当に聖女を倒すとは。
そう喜んだ瞬間、光線が壁を貫通する。
その光線はそのまま俺の体を貫いた。
不敗の雑魚将軍発売まで後、三日です('ω')ノ わーい





