ヘルク・グラシア
◇◇◇
一方、ヘルク隊対聖国軍の戦いも苛烈を極めていた。
その中でも一際目立っているのはようやく姿を現した将軍グリムである。
「助けてくれーーー!」
「なんで、竜巻が……!」
ヘルク隊に襲い掛かるのは正に天災としか見えない竜巻である。
ヘルク隊の兵士の多くが切り刻まれ、吹き飛ばされる。
その竜巻をの中心に居るのがグリムである。
一瞬で百を超える兵士が命を絶たれ、人数差を考えてもかなり厳しい状況であることが分かる。
グリムがはめている手袋こそ伝説級魔道具『テンペスト』である。
町すら飲み込むと呼ばれる嵐を起こすテンペストは、グリムの持つ魔道具の中でもトップクラスの殺傷力を誇っていた。
嵐に刻まれながらも、グリムに襲い掛かる兵士。
グリムはその腕に竜巻を纏わせると、その拳で兵士を消し飛ばした。
その一撃に百戦錬磨と言われるヘルク隊ですら、動きを止めた。
「流石将軍と呼ばれるだけあって、天災のような暴れようだ。爺……僕が出よう。責任は果たさないとね」
「了解いたしました。ですが、お気を付けください。彼も覚醒者ですので」
ヘルクがグリムの元へ走る。
ヘルクに襲い掛かる聖国軍の兵士達は皆、その巧みな剣捌きの前に命を散らす。
「あの男、剣術もやるぞ! 囲んで殺せ!」
敵の指揮官の一人がヘルクに一撃を浴びせる。
「ただの貴族の坊ちゃんだと聞いていたが……スキルだけにかまけていた訳ではないらしいな」
「貴族はただ遊んでいるだけだと思ったかい? 貴族には特権もあるけど、果たすべき義務がある」
ヘルクは敵の指揮官と数合打ち合った後、剣を持つ腕を斬った。
斬られた指揮官は痛みで顔を一瞬歪めるも、笑う。
「見事」
「どうも」
指揮官の首が宙を舞った。
爺は背後からヘルクを見つめながら昔を思い出していた。
(皆、ヘルク様を誤解している。のんびりしている故、苦労していないと思われているが、とんでもない。お父様から血をにじむような訓練を物心がつく前から受けていた。とても子供に受けさせるようなレベルではない訓練を)
◇◇◇
ヘルクはローデル帝国を支える二大公爵グラシア家の長男として生を受けた。
父は公明正大であったが、同時にヘルクに厳しかった。
グラシア家はその武力でも有名であったため、ヘルクが戦闘用スキルでなくとも戦えるよう幼い頃から地獄のような訓練が繰り返された。
「もうこんなのしたくない!別に強くならなくてもいいもん!」
体中に青あざを作ったまだ五歳のヘルクが剣を投げる。
その様子を見た父がしゃがみこみながら、ヘルクに優しく尋ねる。
「もし爺やセレナが襲われたらどうする?」
「うちには兵士がいっぱい居るもん」
「兵士がやられていた時だ。おまえしか戦える者が居ない時、お前は二人を置いて逃げるのか?」
「……逃げない」
ヘルクは瞳に涙を貯めながらも、答える。
その言葉を聞き、父はにっこりと笑う。
「そうだろう? この剣は、お前を守るだけではない。お前の周りの人も、皆を守る剣なのだ。グラシア家は帝国の両翼。帝国の民を守るのは我等グラシア家なのだ。凄いスキルでなくても何も問題はない。だが、大切な人を守るために剣は常に男は握らないとならんのだ」
その言葉を聞いたヘルクは目元の涙を拭う。
「分かった」
ヘルクはそれから辛い訓練も逃げずに立ち向かった。
その訓練は帝国正規兵でも顔を顰めるほどであった。
だが彼には武の天稟があった。
十を超える頃、彼の剣技は剣士スキルを持つ正騎士を超えるほどとなった。
その剣技はスキル『重力』を得た後も存分に活かされている。
◇◇◇
グリムはヘルクが向かっているのに気付くと、嵐を治めヘルクに襲い掛かる。
ヘルクはグリムの竜巻を纏った一撃を剣で受けとめそのまま弾き飛ばす。
「なあ、お前。魔道具持ってる?」
グリムはヘルクの顔を見てにたりと笑う。
「流石魔道具狂い。色々持ってるよ、僕を殺せば君の物だ」
「ハハハハハ、グラシア家の魔道具か。楽しみだ」
グリムも腰から剣を抜いた。
早くも隊長と将軍という将同士の一騎打ちが始まる。
お互いの部下もその一騎打ちが気になるのか動きが止まる。
先に仕掛けたのはヘルク。
軽いステップで一気に距離を詰めると、純白に輝く剣をグリムに振り下ろす。
グリムはそれを剣で受け止めずに躱す。
だが、それをヘルクは連撃で追撃する。
そして遂にヘルクの剣をグリムが受け止める。
その瞬間、グリムが体勢を崩す。
「なっ……!?」
グリムの剣が手から放れ、地面にめり込んだ。
ヘルクのスキル『重力』によって剣の重さが千倍に変化させられたのだ。
(剣の重みを変えられたのか!? もう持てない)
グリムは一瞬で剣が駄目にされたことを悟る。
「獲った」
ヘルクは躊躇することなく、グリムの首を狙う。
だが、その一撃はいつの間にか手に持っていた別の剣で受け止められる。
「まるで手品師だ。けど、おかしいね。その剣に触れたはずなんだけど?」
距離をとったヘルクが首を傾げる。
「君のスキルはどうやら触れた物質に重力を付与するようだね。だけど残念。この別の刀身は魔力でできていて物質ではないのさ」
「……なるほど。色々持っているね!」
一瞬でヘルクのスキルを予測し即座にそれに合う魔道具を用意する。
その豊富な魔道具とそれを自在に扱う力がグリムの強さだった。
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