タイトル未定2024/04/20 20:10
◇◇◇
「思ったより、シビル隊もヘルク隊も強いね。流石次世代の担うと言われている二人だ」
シードは二隊の動きを見ながら笑う。
「シビル隊が圧されているな。親衛隊百五十騎のみ付いてこい。援護に向かう」
「「「はっ!」」」
シードは現場の指揮を副長に任せると、後方に下がる。シードは親衛隊と共に森の中に消えた。
「やるんですね?」
親衛隊の一人が尋ねる。
「ああ。後方からシビルの首を狩る」
シードの言葉に親衛隊は皆文句も言わず頷いた。この作戦はシード隊でも初期から付き従っている親衛隊しか知らない極秘任務であった。
シード達は隊章をシード隊からヘルク隊に変更すると顔を布で隠しそのまま背後からシビル隊の元へ向かう。
「援護に来た!ヘルク隊のものだ! 道を開けろー!」
突然のことにシビル隊の者も首を傾げる。
「聞いているか?」
「知らねえ」
「どけ! シビル様の首を狙っている敵部隊が入り込んだとの報告を聞いた! 間に合わなくなったら責任が取れるのか!」
シードの部下の剣幕に驚いた兵士達が道を開ける。
(馬鹿共が……首を狙っているのは俺達だ! だが、道が開けた。このまま一合で首を刎ねそのまま逃げ切る! シビルの野郎、何が次世代を担うだ。第三騎士団の次を担うのは、この俺シードだ!)
シードは若くして大隊長にも抜擢させる実力者。
次期隊長も期待されており、本人もそう思っていた。だが、最近新星のように現れたシビルが瞬く間に大隊長にまで昇格した。
最近は自分の話題よりもシビルの話題が増えたことも苛立ちの原因であった。
その温厚そうな表情の奥には誰よりも激情が潜んでいたのだ。
シードとその親衛隊はシビルのいる本陣をその目で捕えた。
(来た! 一番の腕利きと言われている副長は前方! 軍師であるシビルだけならすぐに討ち取れる!)
シビル隊本陣の背後は簡易的な壁が作られているが、シード達はその壁を粉砕して斬りこんだ。
(獲った!)
その瞬間、シードの目に入ったのは自分達に向けられた大量の矢であった。
「なっ……!?」
「敵兵だ、処理しろ」
シードとその親衛隊は大量の矢の雨に射られた。
◇◇◇
大量の矢に射られたシード隊の奴等は一瞬でパニックに陥る。
「混乱に乗じて、首を刎ねろ」
俺の言葉と共に、弓兵でなく騎馬隊が四方からシード隊に襲いかかる。
だが、隊長であるシードだけは混乱しつつもすぐに落ち着きを取り戻していた。
「お前等、落ち着いて……」
だが、それを待つ俺ではない。
俺は矢を番えると、剣を振るう右腕を狙い放つ。
その矢はシードの右腕を射抜き、貫いた。
「ぐうっ……!」
隊長が存分に指揮を振るえず、少数であったシード隊はあっという間に全滅した。
俺の顔を見たシードが顔を隠していた布を取ると、叫ぶ。
「ご、誤解だ! 私達はただ劣勢に見えたシビルさんを助けに来ただけだ!」
俺はそれを聞いて笑う。
「わざわざヘルク隊の隊章に代えてですか? くだらない嘘は止めろ。あんたの目的は俺の首だろう? わざわざ敵に内通までしたんだからな」
俺の言葉にシードの顔が変わる。
「なぜ……それを!? 裏切者が居たのか?」
「俺のスキルさ。あんたには詳しく伝えてなかったけどね。このまま裏切者として捕らえても良いんだけどそれじゃ士気が下がる」
俺が合図すると次の瞬間、部下がシードの首を刎ねた。
「無念の殉死にしてやるよ」
俺は首を持つと、そのまま前線に向かい、首を投げる。
「シード隊長が、前線で討たれたぞーー!」
俺は大声を上げる。
その言葉にシード隊から混乱が見て取れる。
カバーしないとまずいな。
俺はすぐさまシード隊の副長の元に向かう。
「シード様が討たれたとは……真ですか?」
沈痛な面持ちで尋ねる。
『彼はシードの裏切りを知っている?』
『ノー』
やはり一部のみにしか言っていなかったか。これは好都合。
全体が俺に敵意を持っていたらかなり厳しかった。
「ああ。攻められていた俺達を助けるために奮戦していたが、その最中矢に腕を射られたようでな。そのまま討たれてしまった。惜しい人材を失ってしまった……」
俺は辛そうな表情を浮かべる。
実際は全て嘘である。あいつは俺を殺しにきた裏切者でしかない。
「いえ……シード様らしい最後です」
裏切って返り討ちになるところがか、とは流石に言えない。
「悪いが隊長が討ち死にしたため、シード隊の指揮は俺が引き継ぐ。異論はないな?」
「勿論でございます! シード隊二千、シビル様と共にあのゴミ共に報いを……!」
シードはどうやら部下には好かれていたようだ。
親の仇を見るような目で聖騎士団を睨んでいる。
隊長の仇を取るぞ、と奮戦するシード隊は敵に多くの損害を与えた。
だが、聖騎士団長であるセレンが出ていないこともありその日の戦いはお互いの損耗で終わった。
夜は人数差にも関わらず善戦したためか帝国軍の者は皆明るかった。
「無事仕留められたようだな」
「ああ。タイミングまで分かっていたら少数での奇襲なんて危なくないさ」
シャロンの言葉に俺は軽口で返す。
俺とシャロンは明日の戦の流れを話すために天幕に集まっていた。
「あまり自分を囮にするな。お前はもう領主なんだぞ?」
「心配してくれるのか?」
俺の言葉にシャロンの目が吊り上がる。
「お邪魔かな?」
「誰だ!」
シャロンがすぐさま剣を取る。
だが、そこにいたのは知っている顔、ヘルクである。
「怖いなあ。心配は要らなかったようだね、シビル君」
ヘルクがにっこりと笑う。
ヘルクはシード達がこちらに攻め入っていた時こちらを覗いていた。
おそらく何かあれば即座に助けに入れるようにだろう。
「心配をかけたな。だが、よく分かったな」
ヘルクにシードの裏切りについては話していないはずだが。
「うーん……。昔から貴族として人と会うことが多かったからかな? 怪しげな目の光は分かるんだよね。笑顔だったけど、君のことを憎んでいたように感じたんだよ」
抜けているようで中々鋭いな。流石グラシア家。
「なるほど。まあもう終わらせた。シード隊もこちらで併合する。四千居ればある程度戦いになるはずだそちらにも迷惑はかけない」
「それはそれは。約束を守ってもらうまでは死んでもらっては困るからね。未来が見える君なら心配は要らないと思うけどね。明日も頑張ろう」
ヘルクはそう言うと去って行った。
「約束とはなんだ?」
「ヘルクをここに呼ぶためにある約束をしたんだ」
俺はシャロンに経緯を話し始める。
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