始まり
一方その頃あの男はまだ別の露店で魔道具を探していた。
「あまりびびっとくる物がないねえ。いやあ、本当に欲しかったよ空靴。ハルカ共和国の国宝にも指定されている空靴があんな所で見られるなんて僕は運が良い」
そんな男の元に一人の男が駆け寄る。
「グリム様、こんなところにいらっしゃったのですか!? ここは敵地です。早くデミ聖国に戻りましょう!」
「分かっているさ。今回の敵は、グラシア家の長男も参加しているらしいね。どんな魔道具を持っているのか今から楽しみで仕方ないよ。空靴君ももしかしたら……いやそれは望みすぎか」
グリムと呼ばれた男は興奮した表情を浮かべた後、部下とデミ聖国に消えていった。
デミ聖国軍将軍グリム。彼はデミ聖国軍トップの称号を持つ男だった。
◇◇◇
俺達帝国軍は、三日後予定通りに都市ゴルデンを離れ国境付近に進む。
『デミ聖国軍との距離は百キロ以内?』
『イエス』
『デミ聖国軍との距離は五十キロ以内?』
『イエス』
『デミ聖国軍との距離は三十キロ以内?』
『ノー』
既にだいぶん近づいていることが分かる。
数日のうちに俺達はぶつかることとなるだろう。既に日も暮れた。
「ダイヤ、今日はここまでだ。ヘルクとシードさんを呼んできてくれ。軍議を行う」
「はーい」
俺は天幕を張り、二人を待った。
「もうすぐだよね。軍略を聞かせてもらえるのかな?」
ヘルクがなぜかメイドさんと執事を連れてやって来た。
その美人とお爺ちゃんは誰なんだい?
「ヘルク、後ろの人は?」
「ああ、僕の世話を昔からしてくれているセレナと爺だ。心配しなくてもある程度戦えるから信頼してくれていい」
「まあいいや。では本題に入ろうか。敵軍は二万。聖騎士団、聖国軍各一万ずつ。シビル隊とシード隊の二隊で聖騎士団を、ヘルク隊で聖国軍をお願いしたい」
「私は今回のトップであるシビルさんに従います」
シードさんは納得してくれたようだ。
「僕も従うが、人数は倍以上。まともに当たった場合、勝てると思えないけど?」
ヘルクはそう言って笑う。その顔は何かを期待しているようだった。
「なに。戦は敵将を討ってなんぼでしょう? シビル隊の中で最も練度の高い白虎隊五百を別動隊として森の中に配置しています。その五百で聖女を捕えます」
「なるほど。将を狙う訳だ。聖女は来ているのかい?」
「確かな情報です。開戦の合図はヘルク、君に任せたい。派手な花火を上げてくれ」
俺はヘルクに開戦の合図のやり方を伝える。
「面白そうだ。僕のスキルを聞いて、そんなことを考えるなんて。君の言う通り、派手な花火を上げてやるさ」
ヘルクはそう言って笑う。その後も細かい戦術を伝えた。
「では、二人とももうすぐ戦だ。武運を祈る」
「勿論」
「ご武運を」
◇◇◇
帝国軍から四十キロ程離れた開けた平地に、デミ聖騎士団とデミ聖国軍は陣を構えていた。
物々しいフルプレートの騎士に囲まれた陣の中にまるで王族が来ているかと思われるほどの天幕が一張りだけ張られている。
聖女ロズウェルと聖騎士団長セレンが座っている中、一人の男が天幕に入って来た。
「お待ちしておりました。情報は手に入りましたか?」
「はい。こちらは長期戦は不利と考えてロズウェル様を狙っているみたいですね」
男は静かに答える。
「まあ、そうでしょうね。どうやって狙うつもりなんです?」
ロズウェルはにこにこしながら尋ねる。
「別動隊五百を森の中に配置し、裏から襲い掛かる計画。既にわが軍を離れており、こちらの背後に居ると思います」
「ふん、その程度で我らがやられるものか。返り討ちにしてやる」
その後も男はシビルから聞いた戦略をそのまま話す。
「ありがとうございます。おかげで準備して戦闘に望めそうです」
ロズウェルは微笑む。
「大丈夫です。こちらも仕事なので。味方を殺すのは心が痛みますが……すぐに彼の首を落として終わらせます」
男は悲しそうに言うも、顔を笑っていた。男は話し終えると、そそくさと天幕を出て行った。
「あの男をどこまで信用してよいものか」
セレンは男を警戒しているようだった。
「そのようなことを言ってはいけませんよ。あの方は正義のであるこちらに付いたのです。それは素晴らしい行いです」
「……帝国も一枚岩ではないということですね。それにしても隊長の一人がこちらについた時点でこの戦、勝負にはなりませんな。罪人であるメリー族は必ず私が殺す」
「セレン、貴方は別動隊の首を狩りなさい。その首を掲げれば帝国軍も諦めるでしょう」
「はっ! こちらは大丈夫ですが、聖国軍は大丈夫でしょうか? 大将はあの魔道具狂いでしょう?」
「決して心配は要らないでしょう。確かに変わっていますが、あの人もまた怪物ですから」
「あの男はまず神を崇拝していません。元はダンジョンで魔道具を集めていただけの男ですから」
グリムは元々聖国軍の兵ではなかった。
魔道具好きが高じて延々とダンジョンに潜る冒険者だったのだ。
まだ段々他人の魔道具まで欲しくなったグリムは、悩んだ。
流石に一般冒険者を殺して奪うと後が面倒だと。
そこで彼は閃いた。悪党なら殺して奪っても問題ないのでは、と。
彼は悪党を中心に探し、魔道具を持っていた場合殺して奪い取っていた。
その行動を正義から行っていると勘違いした聖国が、グリムをスカウトする。グリムは敵兵の魔道具を自分の物にして良いという契約を結び、聖国軍に入隊した。
戦闘系スキルでないにも関わらず、その巧みな魔道具使いによって彼はいつしか聖国軍の頂点である将軍にまで辿り着いた。
「確かにそれは良くありませんね。ですが、聖国には聖騎士団、そしてセレンあなたが居ます。ならば何も問題はないでしょう? 期待してますよ」
ロズウェルがにっこりと笑う。
「も、勿論です! 必ずロズウェル様の期待に応えられるように戦います!」
セレンは嬉しそうに言った。
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