ゴルデンの現状
俺はふらふらと町を探索する。
ここは獣人が多いな、とふと思う。
ここの都市が獣人を受け入れているとは聞いたことがないが。
どこか懐かしさを感じながら露店が並ぶ通りを歩いていた。
『これは売値より価値がある?』
『ノー』
昔の癖で価値をメーティスさんで鑑定してしまう。
懐かしいな、とふとネオンを思い出す。
すると横で真剣な目で露店を物色している男が居た。
「あまり良い物ないねえ」
「いちゃもんつけるなら帰ってくれ」
「いや、失礼した。申し訳ない」
男は申し訳なさそうに頭を掻く。年は三十程だろうか、商人かと思ったが武器を携帯している。
「んっ……? そ、それは空靴じゃないか!」
男は突然大声をあげると顔を地面に張りつけ、俺の履く空靴を齧りつくように見つめる。
なんだこいつ、不審者か?
「う、売ってくれないか! 一億G出す!」
やっぱり商人なのか?
『この男は商人?』
『ノー』
「すみません、これは大事なものなのでいくら積まれても売るつもりはありません」
「なら二億出す! えっ、その弓もランドールの悠弓じゃないか! 空靴君、いい物ばかりもってるねえ。どっちかだけでも!」
「どちらもお断りです」
後、人を魔道具名で呼ぶな。
「そんなあああ! 売ってくれよう!」
男は泣きそうな顔でしがみついてくる。
「離れろ、おっさん! 衛兵を呼ぶぞ!」
誰がおっさんにしがみつかれて喜ぶんだ。
「ぐうう……残念だ。本当に。まだ見ぬ魔道具を探すか。さらばだ空靴君!」
謎のおっさんはそう言って去って行った。なんて癖が強いおっさんなんだ……。
『俺のことまで知ってるなんて、中々詳しかったなあのおっさん。実は博士とかじゃないか?』
『ただの不審者だろう』
ランドールの言葉に俺は厳しく返す。
「待てや、クソガキが!」
怒鳴り声を聞き、振り向くと商品を持った獣人の子供が店主と思われるおっさんに追いかけれている。おっさん日和である。
おっさんと思えないくらいの健脚に獣人の子供は手を掴まれそのまま地面に引き倒される。
「またお前か! ぶっ殺してやる!」
おっさんは怒りのまま子供を思い切り踏みつける。
「ガッ!?」
その後もおっさんは子供を殴りつける。
あの子か……。
俺はおっさんの元へ向かうと、その手を掴む。
「もう十分でしょう? それ以上は死んでしまいます」
「誰だあんた? こいつは常習犯なのさ。よそ者は黙っていてくれ」
「貴方が被害者なのは分かっています。申し訳ないが今回は退いてもらえませんか?」
俺はそう言って、手に金貨を握らせ深々と頭を下げた。
「……しょうがねえな。クソガキ、この兄さんに感謝するんだな」
おっさんは金貨を握って去って行った。
「大丈夫か? 家まで送ろう」
「兄ちゃん、お人よしだな。長生きできないぜ?」
頭に大きな狼耳をつけた少年は、口元の血を拭いながら言った。
「なに、見る目はあるつもりだ。その体を見ればわかる。食べ物のためだろう?」
少年の手足は痩せており、十分に食べられていないことが分かる。
「違う! 皆、俺に食べさせてくれる! 他の人が食べられてないんだ!」
少年はぽつぽつと現状を話し始めた。
少年は今孤児院にお世話になっているらしいが、子供の数が多く満足に食べられてないらしい。
話しているうちに、俺と少年は孤児院に辿り着く。
見た目からしてぼろぼろな上に、場所も僻地にある。経営が厳しいのが一目で分かった。
「ボリス!? どうしたその傷は!? まさかまた盗みをしたのか! あれほどしてはいけないと言っただろうが!」
孤児院から神父様と思わしき人がこちらを見て大声を上げる。
年は六十を超えているだろうか。深い皺が顔には刻まれているが、背筋はピンとしておりまだまだ現役のようだ。
「俺の勝手だろう!」
「勝手な訳あるか! 今すぐ謝罪に向かうぞ!」
神父様は少年の首根っこを掴む。
「まあまあ。私も謝罪をして参りましたので」
あまり良い謝罪方法ではなかったけど。
「失礼ですが貴方は?」
「シビルと申します。ボリス君を助けた縁でここまで」
「それはそれは。ご迷惑をお掛けいたしました。大変申し訳ございません。全ては私の不徳が致すところでございます」
神父様は頭を下げる。
「アデル様は何も悪いことしてねえじゃん!」
「馬鹿者! お前がした罪は、全て私にも罪があるに決まっているだろう! それが親という者だ。随分やられたらしいな。服をあげろ」
少年の怪我に気付いたアデルさんは少年の怪我を治癒で治療し始めた。
中々の怪我だったが、一瞬で治療してしまった。
「素晴らしい腕ですね」
「いえいえ、他に何もできませんで。ボリス、中に入ってなさい」
「へーい」
少年は渋々孤児院に入っていった。
「大変そうですね」
「いやお恥ずかしい。ボリスの行ったことは勿論許されることではありません。ですが、その責任の一端は私にありまして。経営が厳しく満足に子供にご飯も与えられていないのです。年長者の者が食事を減らしているのを見てから盗みを働くように」
アデルさんはため息を吐く。
「なぜそんなことに?」
「今代の聖女は純人間主義を掲げて居ましてね。デミ聖国から追い出された獣人の孤児が皆、ローデル帝国に流れているのです。幼く戦うことのできない獣人の子供達の生活は過酷そのものです。既にここの孤児院のキャパシティを大きく超えています」
獣人が多いのはそれが理由か。
「大きくなった子供達が食い扶持を減らすために、グロリア領に向かったこともあります。あちらは白虎隊という獣人部隊があるようでしてね。獣人も住みやすい環境らしいのです。お会いしたことはありませんが、領主様はきっと素晴らしい方なのでしょう」
まさかのうちである。獣人増えているな、とは思っていたけど噂になっていたのか。
「そう言われると照れますね」
「えっ?」
「グロリア家当主のシビル・グロリアです」
俺は頭を下げて再度挨拶をする。
「これはこれは。貴族様でしたか!?」
「事情は伺いました。困ったことがありましたらいつでもグロリア領を訪ねて下さい。うちは種族は気にしませんので。仕事も紹介できると思います」
正直獣人達は他よりも仕事してくれるし、うちとしても来てくれる分には助かる。
「それは……大変助かります! 行くところがなくて困っている者も多いのです。なんとお礼を言ってよいか」
アデルさんは顔を綻ばせながら何度もこちらに頭を下げた。
「困った時はお互い様ですから」
「ありがとうございます。こちらでできることがあれば何でも言って下さい」
「大変助かります」
俺はその後しばらくアデルさんと今後について話し合い別れた。
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