助けて
「メリー族の仲間か! あいつも殺せ!」
そう叫ぶ男の眉間に、矢が叩き込む。
「お前が死ね」
俺は男の取り巻きを睨みつける。
「まだやるか?」
取り巻き達は顔を見つめ合わせた後、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。
メロウは一瞬安心した顔を見せた後すぐに、泣きそうな顔に変わる。
「なんで、ここに……。もう放っておいてや! あいつ等の言う通りや。私なんていらん! もう嫌や! 私の存在がシビルの迷惑になっているのも知ってる! 私が死ねば全て終わる。私は生きていたらいけない存在なんや!」
メロウの口から濁流のように言葉が溢れ出す。既に限界だったのだ。
メロウは優しい。ただでさえ慣れない環境のうえに自分のせいで、俺達に迷惑をかけるのが耐えられなかったのだろう。
「そんな訳あるか! 生きていたら駄目な存在なんて居ない。俺はメロウに生きていて欲しい。死んだら悲しいよ」
俺は静かに、メロウに語りかける様に伝える。
「けど、国が私を狙って……。皆が私を見て罵って、捕まえようとしてくるんよ」
「そんな国も人も、皆俺がぶっ潰してやる。そのために俺は貴族になったんだ」
「けど、もう迷惑かけたくないんや。私が死ねば、もうシビルは戦わなくてすむんやろ?」
「仲間なんだ。いくらでも迷惑をかけていいんだ。メロウ、君の本当の気持ちを聞かせてよ。君の望みを」
メロウの顔がぐしゃりと歪む。しばらくこらえるような顔をした後、口を開いた。
「わ、私だって……死にたくなんて、ない! なんで、なんで私だけ! 私は何もしていない! 何もしていないのに……どうして、私を殺そうとするの? 普通の……普通の生活がしたいよぉ。友達を作って、遊びに行って。ご飯食べて……。助けて……」
最後消えゆくような声で、メロウが言う。
そんなメロウにかける言葉なんて、俺は一つしか知らない。
「任せろ! 俺が必ず叶えるよ。メロウが幸せに暮らせる場所を必ず作るから。仲間一人も助けられない奴、何も成し遂げることなんてできない」
俺は胸を叩きながら笑う。
最初から、俺は全面戦争しか考えていない。
完膚なきまでの勝利で、二度とメリー族に被害が出ないようにしてやる。
「……ありがとう、シビル」
「すぐにデミ聖国に撤回させてやる。しばらくは追手もこない所に隠れたら良い」
俺の言葉を聞いたメロウが黙って何かを考え始める。
不安なのだろうか?
だが、予想とメロウの言葉は予想とは大きく違った。
「私も行く」
それは覚悟の決まった顔をしていた。
「流石に危険だぞ? 敵もメロウを狙ってくると思うし」
「分かっているけど、私も戦える。相手は私達メリー族を殺し汚名を被せたデミ聖国やろ? 我が儘かもしれへんけど、これは私にとって大事な戦いやと思う。私も戦わなあかんのよ」
確かにデミ聖国はメロウからすれば一族を殺した仇だ。自分の手で終わらせないと進めないこともあるか。
「仕方ないな。前線には出ないこと、戦場では俺の指示に従うこと。いいな?」
「了解」
俺はメロウを連れてグロリア領に帰った。
屋敷の前では、シャロンが剣を持って無言で待っていた。
「ごめんなさい……」
メロウは勝手に出て行ったことを、謝罪した。
「おかえり。疲れただろう、ゆっくりとご飯を食べよう。腹が減っては戦はできぬ、だからな」
シャロンは微笑みながら肩をぽんと叩き、中へ入っていった。
「……うん!」
メロウも笑いながら、シャロンの後を付いていった。
数日休んだ後、俺はグロリア軍千を率いてデミ聖国に隣接するテナート領へ向かった。
俺達はテナート領の小さな都市ゴルデンに到着した。
ゴルデン自体はデミ聖国と距離があることもあり、住民も皆穏やかそうな顔をしている。
ここで他の帝国軍に合流し、デミ聖国へ向かう手筈となっている。
そんなことを考えていると、向こうから二人が歩いて来た。
「シビル君、君も辿り着いたかい? ヘルク隊三千もゴルデンに入ったよ」
声をかけてきたのはヘルク。
「シビルさん、初めまして。第三騎士団から来た大隊長シードです。お噂はかねがね聞いています。共に戦えて光栄です」
シードさんはそう言って、笑顔でこちらに手を伸ばしてきた。
年齢は俺やヘルクより少し上くらいの男性だ。
優しそうな顔をしているが、体は細身ながら鍛えていることが分かる。
「初めまして。こちらこそよろしくお願いします」
「シード隊二千と、別部隊千を連れてきました。千はシビル隊に。軍師と言うこともうかがっていますので、シード隊はグロリア軍に従います。どうかよろしくお願いします」
「感謝を。敵に合わせるためここゴルデンで三日休み、その後国境へ向かいます。詳しい相談は国境付近で。よろしいですか?」
「大丈夫です」
「大丈夫だよ」
二人は去って行った。
「二人とも頼もしそうだな。特にヘルク。聞いたことがある。最も次期騎士団長に近い若き才能だと。是非手合わせを願いたいものだ」
シャロンが笑う。
「ああ。今回は団長達が居ない分、若い部隊が中心になる。聞いてた通りだが、数日休みだ。シャロンも疲れただろう。ゆっくり羽を伸ばしな」
「お言葉に甘えよう。メロウ、共に町を見て回らないか?」
「えっ、私!? ええで、行こう!」
少しメロウは驚いた声を上げたが、すぐに笑顔でシャロンに付いていった。
◇◇◇
シャロンとメロウは二人で大通りを歩く。二人とも綺麗だから、歩いている男達も自然と二人に視線が寄っている。
「ごめんな、気を使わせて。私のせいで。精一杯頑張るから」
メロウが申し訳なさそうに言う。
「私のせいで、じゃない。メロウは何も悪いことをしていないだろう。むしろ被害者だ。あえて言うなら、メロウのために、の方が私は好きだ」
シャロンが言う。
シャロンの優しい言葉にメロウが笑う。
「優しいんやなあ。最初は少し怖かったけど……いや、ごめん! せっかく誘ってくれたのに」
慌てるメロウにシャロンも笑う。
「別に怒ったりしないさ。私は部下からも怖いとよく言われるんだ。いつも眉間にしわが寄っているからかな? 良い騎士になろうと努めているだけなんだが……。私は昔から騎士に憧れていたんだ。民を、仲間が苦しんでいるなら手を差し伸べられるような騎士に。その気持ちは今も何一つ変わらない。シビルからの繋がりとはいえ、私達はもう仲間だろう? 私にもメロウを守らせてくれよ」
その言葉を聞き、メロウは目を潤ませてシャロンを抱き締めた。
「格好良すぎや……どんな男より男前やん。ありがとう、シャロン」
メロウはしばらくした後、落ち着いたのかぽつぽつと話し始める。
「私な、どんな理由があろうとメリー族が誰かを殺したのならそれは悪いことやと思うんよ。その結果、誰かに恨まれて殺されることも仕方ないかなって。けど、殺させた聖国にメリー族が責められるのは、全てメリー族が悪いって罪を背負わされるのは違う。手を穢さない位置で命令していたあいつ等がメリー族に全ての罪を擦り付けるのは許せへん……! そのために、私はここに来た」
「……ああ。メロウも共に戦おう。それに安心しろ。私が君を守ろう」
「えっ? 結婚申し込まれとる?」
「なんでそうなる!?」
シャロンの驚きの声を聞き、メロウが笑う。
「冗談や! 暗い話してしまったな。美味しいランチのお店探しに行こ!」
「ああ」
シャロンとメロウは仲良く店を探し始めた。
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