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再び謁見

 俺が馬を駆けさせて屋敷に戻ると、扉も前でリーシェンが待っていた。


「シビル様、お疲れ様デス。ゴランは無事に勢力の拡大に成功したようデスよ」


「それは良かった。あいつもこれで大ファミリーになったな」


 俺は馬から降りて、笑う。


「本当に彼で良かったのデスか? 他に適任が居たと思いますガ」


「あれで根は善人だからな。本物の悪人には実力があっても任せたくない。それに……」


 メーティスが言うには、ゴリはあれでも大ファミリーをしっかりまとめられるらしい。リーシェンの疑問も最もだが、メーティスさんが言うなら大丈夫だろう。


「リーシェン、わざわざ待っているということは何かあったのか?」


「ご名答デス。招集状です、皇帝からの。先日の件でしょう」


 デミ聖国の奴等、やはり正式に抗議してきたか。


『このままだとローデルとデミ聖国で戦争が始まる?』

『イエス』


『俺は戦争を引き起こした罪を問われる?』

『イエス』


『罪で降格される?』

『ノー』


『罪で断絶される?』

『イエス』


 貴族になったばかりなのに、一瞬でお家断絶である。

 俺は静かに覚悟を決めた。


「数日休んだら帝都に出発する。準備を頼む」


「急いだほうが良いのデハ?」


「問題ない。待たせておけ」


 正直これは予想していた。そのために今まで動いていたのだ。


「シビル!?」


 俺を呼ぶ大声が響く。その目線の先にはどこか不安そうなメロウの顔があった。


「なんで……なんで私に何も言ってくれんかったんや!」


 メロウは俺を服の袖を軽く掴むと、小さな声でそう言った。


「なに、こんな些細なことをわざわざ伝える必要もないだろ? メリー族だからって言いがかりつける奴はぶっとばしてやるって言ったじゃないか」


「けど、そのせいで戦争になりそうなんやろ? そんなん私、望んでへん……」


「メロウが望んでないことは知っている。何も悪いことなんて、メロウはしてないじゃないか。気にしなくて良い」


 俺の言葉を聞いて、しばらく悩んだ顔を見せたメロウは小さく微笑む。


「ありがとうな、シビル。本当に」


「なに。帝都に少し行ってくる。はっきりと言ってやらないとな」


 俺はメロウを宥めた後、少しして帝都へ向かった。


 衛兵に家紋を見せ、俺は城の中に通される。既に何度か来ているが、今回は尋問のために呼ばれたと考えると気が重い。


「今、陛下は騎士団長と共に定例会議をなされている。しばらくお待ちください」


 そして待つこと数時間、遂に俺は謁見の間に呼ばれた。

 俺は前に進み、跪く。


「シビルよ、表をあげよ」


 皇帝の言葉に俺は顔を上げる。

 周囲を見渡すと、帝国を代表する騎士団長達がこちらを見ている。第一、第三、第五騎士団長の三名。そして二大公爵家のバーナビー家、グラシア家もだ。


「最近はよく会うな、シビル。色々しているそうではないか。デミ聖国からメリー族の引き渡し要請が、正式な書状で届いた。引渡を拒否し外交官を侮辱したグロリア家への処罰申請もだ。何か申し開きはあるか? それによっては、お主を処罰せねばなるまい」


 厳かな声が静かな謁見の間に響き渡る。

 この回答次第によって、俺の人生は決まるだろう。

 だが、答えは決まっている。


「外交官の侮辱については否定しますが、引渡しの拒否に関しては事実でございます」 


 俺ははっきりとそう答えた。


「ほう。引き渡し拒否に関して、どう責任を取るつもりか?」


「責任など何一つないと考えています。メリー族は確かに我が領に居ますが、何一つ罪など犯しておりません。正式な我が領民であり、無罪の領民を引き渡すことなどどうしてできましょうか?」


「それは綺麗事であろう。実際に国際問題になっている訳だからな」


 バーナビーがこちらを見ながら笑っている。


「陛下、帝国はなぜこれほどまで発展したのか? それはひとえにあらゆる者を受け入れる度量があったからだと考えております」


「それは確かであろうな」


 俺の言葉を聞き、陛下は小さく頷く。


「そんな帝国が、何の罪も犯していない少女を、デミ聖国に言われたからといってあっさりと引き渡す。そんなことがあれば、今後帝国に移住しようと思っている多くの民は、移住を取り止めるでしょう。他国に言われたらすぐに引き渡す程度の器なのだと」


 陛下はしばらく黙った後、口を開く。


「ふむ、シビルよ。お前の言うことも一理あるだろう。だが、お前の決断により何の罪もない多くの民が傷つくとしても同じことが言えるか?」


 戦争が始まれば、民にも影響が出ると言いたいのだろう。

 それは正論である。

 多くの犠牲のために、少数の民を切り捨てる決断をする。それも為政者としては必要なことだろう。

 だが、そのためにメロウを切り捨てることなんて絶対にする気はない。


「民を巻き込むつもりはありません。こちらから打って出ます」


 俺は陛下に抗戦の意思を伝える。だが、民を巻き込まないためにも、国境付近でデミ聖国を止めるつもりだ。

 俺の言葉を聞いたバーナビーは笑いだす。


「ハハハハハ! それは良い! グロリア軍だけで戦い勝利を掴むと良い! おそらく聖騎士団が出てくるから、数は一万を超えるだろうがな!」


「何人いようが、関係ありません。私は決して仲間を売るつもりはありません」


「好きにするがいいさ」


 そこで団長の後ろに控えていた騎士の一人ヘルクが手を上げる。


「陛下、発言してもよろしいでしょうか?」


「構わん」


「第一騎士団大隊長ヘルク・グラシアです。おそらくデミ聖国が帝国を攻める際のルートは我がグラシア家の寄り子であるテナート家と統治するテナート領です。ヘルク隊も防衛のために参加させて頂きたい。団長、よろしいでしょうか?」


 ヘルクの言葉を聞いた団長アルドラ・ホーランドは歯を見せて笑う。


「ふむ、話は分かったぞ! 領民のために戦うその覚悟素晴らしい! 第一騎士団から三千出す。ヘルクはそれを率いて援護してあげると良い」


「団長、ありがとうございます」


「アルドラ様、援軍誠に感謝いたします」


 俺は深々とアルドラさんに頭を下げる。

 『絶対英雄』と呼ばれる帝国の顔であるアルドラを俺は初めて見た。

 その佇まいだけで、彼の強さが見て取れるというものだ。


「ふふ、安心してシビルちゃん。貴方も第三騎士団の仲間なんだから。本隊はハルカ共和国付近を警備しているから出れないけど、予備隊を三千程送るわ」


 ウインクをしながらアンジュさんが笑う。


「ありがとうございます」


 十分すぎる援軍である。


「うちは出さんぞ。自分で蒔いた種だろう。勇敢と無謀は違う。七千程度で勝てるか見ものだ」


 そう言ったのは第五騎士団長ドミニク・エルクラフト。

 御年六十を超える老人である。

 小柄でがっしりした体で、髭をふんだんに蓄えているが、頭部は寒々しい。

 後ろに立つ副団長も齢六十を超えており、上の平均年齢を大きく上げている。


「ドミニク様のおっしゃる通りです。自分で蒔いた種は自分で刈り取ります」


 俺は頭を下げる。まあ、援軍は遠慮なく頼るけど。


「ふむ。シビルよ。自らの力でデミ聖国を跳ねのけるが良い。お主には私も期待しておる。良い報告を待っておるぞ」


 陛下はそう言うと、腰を上げる。話はこれで終わりということだろう。

 陛下が謁見の間を出た後、皆も解散となった。

 ヘルクがこちらにやってくる。


「一緒に戦うのは初めてだね。楽しみにしているよ」


「こちらこそ、よろしく。援軍感謝する」


「構わないよ。こちらにも目的があってのことだからね」


 ヘルクがそう言って笑う。


「早速で悪いが、できる限り早めに出立してほしい」


「ああ、分かっている。おそらくデミ聖国ももう用意しているだろうからね」


 ヘルクはそう言って歯を見せて笑う。

 王子様ルックな彼がやると中々様になる。

 階級で言うと、大隊長二人レベルの軍で、敵国とまともにあたることになる。

 厳しい戦いになるだろうが、退くことはできない。


 俺はヘルクと別れ、自領へ急いだ。

 ようやく屋敷に辿り着くと、そこには焦った顔のイヴが待っていた。


「シビル、大変! メロウちゃんが……消えちゃった!」


「えっ!?」


 俺を待っていたのは、予想もしていないメロウの失踪だった。

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