味方(知らない人)
「あの者を本当に三大ファミリーの一角に据えるおつもりですか?」
ゴラン達が消えた小屋内で、コックチャックに側近の者が尋ねる。
「奴に実力があるかは分からんが、使えるのなら使えばいい。正直、ペリドットファミリーにボピンのシマを取られると大きくなりすぎる。他のファミリーに渡したいが、無駄に荒れてしまう」
コックチャックはこれでゴランの実力を測る気であった。
使える手駒なら使うし、使えないのであれば消せばいい。それだけのことだった。
ゴランは戻ったその足でそのままシビルの屋敷に乗り込んだ。
「おい! どうすんだ! やべえぞ!」
ゴランは屋敷に入ってすぐ大声を上げる。
「貴方馬鹿? ここで死にますカ?」
そんなゴランの首にナイフを当てるリーシェン。
「す、すまねえ。だが、こっちも急用なんだ!」
「私達と貴方達が繋がっていることがばれれば、計画は全てパーでしょうガ。シビル様を呼びますので、奥で待ってなサイ」
ゴランはそのまま奥に通される。
しばらくして、部屋にシビルがやって来た。
「よっ、ゴリさん。無事に戻ってこれたようでなによりだ。三大ファミリー就任おめでとうパーティでもするか?」
「ふざけるな! ボピンファミリーのシマを三ヶ月で全て支配しろってよ。その後千人程度の構成員の常駐。どっちも無理だ! このままじゃ俺は殺されちまう! なんとかしてくれ!」
「うちも兵がこれから必要そうでこちらからは出せない」
シビルの言葉を聞いたゴランは顔を真っ青にする。
(こりゃあまじで夜逃げしねえと……だが三大ファミリーを敵にまわして生きていけるとは思えねえ。詰んだ)
「ゴリ、大丈夫だ。俺が手を打っておいた。数日後多くの味方がお前の元を訪れるだろう。楽しみにしておけ」
「味方って誰だよ、畜生……」
結局ゴランは、藁にも縋る思いでシビルの言葉を信じスラムに戻っていった。
数日後、シビルの言う通りゴランの元へ多くの人物が訪れた。
「ハリルファミリーのハリル、ロッキードファミリーのロッキードも居るじゃねえか!」
その顔ぶれの豪華さにゴランは驚きを隠せなかった。
ゴランの前にやって来て跪いている者はゴランファミリーより大きなファミリーの首領達である。ゴランファミリーは総勢二百名。ロッキードファミリーは総勢六百名に上る。
他にも複数のファミリーの首領が跪いており、そのファミリーの総勢は二千を超えようという数である。
その目線の先には、椅子に座ったゴランが居る。
(ど、どうなってんだ? 俺が居ない間に一体何があったんだ? 三大ファミリーの傘下には居ない大物ばかりじゃねえか!)
多くの首領を代表として、ロッキードが口を開く。
「三大ファミリーの一角への就任おめでとうございます。今回ゴランさんの心震わせる熱いお誘いを受け、このロッキード年甲斐もなく血が滾りまして参加を決意させて頂いた次第です」
(誘い? なんのことだ? しかもまだ俺三大ファミリーになってねえんだけど?)
だが、それを顔に出すことはすなわち死を意味すると本能的に感じ取ったゴランは、極めて冷静な顔で頷く。
「ロッキード、貴方程の大物が受け入れてくれて心より感謝する」
「三大ファミリーがすっかりローデルを牛耳ってもう長い。そんな状況の中で今、三大ファミリーの一角を破りその座を奪い、更にこれからローデルの頂点を狙うと聞いた。そんな面白い話聞いたら乗らない訳にはいかねえじゃねえか」
そう言ったのはハリルファミリーの首領ハリルである。
ハリルの言葉に多くのファミリーの首領が頷いている。
(えっ!? 俺マフィア界の頂点を目指すってことになってんの? あの馬鹿領主が各ファミリーに何か送ったに違いねえ! だが、もう……退けねえ)
自分が大きな命がけの博打に参加させられていることに気付いたゴランは静かに覚悟を決める。
「ここに集まってくれた多くのファミリーは、今までの三大ファミリーに煮え湯を飲まされてきたと思う。だが、俺はこれから三大ファミリーも全てぶっ壊し、ローデルの頂点を取る。俺と来い、我が兄弟達よ」
ゴランの言葉に、静かに皆は首を垂れる。
(ふう……なんとか誤魔化したぜ。このまま戦わずに指示し続けるしかねえ。こいつら、殆どが俺より強いに違いねえ)
だが、そんなゴランに一人のファミリーの首領が尋ねる。
「俺はファミリーの首領には、自分より強い奴が良い。ゴラン、お前は俺より強いのか?」
ゴランを見定めるような目で見つめるのは、ラクガンファミリーのラクガン。
その腰には剣が下げられている。
(畜生! やっぱりそういう奴が一人は出ると思ったぜ! 他の奴等も興味深そうに見守ってやがる。どうする?)
ゴランは脳内をフル回転させる。
「威勢のいいやつが居るな。別に構わねえぜ。かかってこい。俺はここから動かねえ。狙ってみろ」
そう言ってゴランは自らの額をトントンと叩き挑発する。
その様子にラクガンは歯ぎしりする。
「舐められたものだな! 死んで後悔するなよ」
ラクガンは剣を抜くと、ゴランの額めがけて渾身の一撃を叩きこむ。
金属の澄んだ音が、室内に響き渡る。
「殺ったのか!?」
他の首領が驚いたような声を上げる。
目を向けるとそこには自らの剣が折れて驚くラクガンの姿があった。
一方ゴランは涼しい顔でラクガンを見据えている。
「なんと……ラクガンは元は一流の剣士。その一撃を受けて全くダメージが見えない。ボピンを殺したその実力は本物だったのか」
ハリルも息を呑む。
「くだらねえ余興は終わりだ、ラクガン。少しは分かっただろう?」
ゴランはにやりと笑う。
「ああ……疑ってすまなかったな、首領ゴラン」
ラクガンは両手をあげて降参のポーズを取る。
(やべえ……まじで死ぬ所だった。どんだけ鋭い一撃なんだよ。スキル硬化の力を額のみに集中して良かったぜ。全身硬化なら一瞬で殺されてた)
ゴランは実力差を感じ、硬化の力を額一点に集中させていた。そのため格上であるラクガンの一撃がノーダメージで済んだのである。
額への挑発がなければ死んでいたのはゴランであっただろう。
一連のやり取りを見た他の首領達もゴランのことを首領として認めたようだ。
これにより無名であったゴランファミリーに多くの有名ファミリーが傘下となった。総勢二千名を超える巨大ファミリーがひそかに誕生した。
ゴランはロッキードファミリーを中心とした多くのファミリーをボピンのシマに派遣し、瞬く間に支配した。
こうしてゴランファミリーが名実共に三大ファミリーとして名を上げていく。
ゴランファミリーが大きくなればなるほど、そのトップであるゴランについて知ろうとするものが増える。だが、ゴランに関しては多くが謎に包まれており、ただボピンを殺して名を揚げたということしか分からない。それが周囲のファミリーを一層警戒させた。
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