喉に届け
俺は突然のディラーの来訪に疑問を隠せなかった。なぜか後ろにもう一人ディラーの部下も控えている。
「どうしてここに? ネオンは?」
ディラーが依頼を放棄するとは思えない。
「なに、ここは俺の故郷なんだ。故郷を守るために俺も少し頑張ろうと思ってな」
そう言って、ディラーは自分の顎髭を撫でる。
「ありがとうございます。ですが、十分なお金は支払えないんですよ」
「別に金なんていらねえよ」
「もうすでにネオンさんに貰って――」
「コリン、余計なことを言うな、馬鹿!」
「いてえ!」
後ろに控えていた部下、コリンが口を挟むも、ディラーに殴られていた。コリンは、すみません、と呟きながらも後ろに下がる。
「もうばれちまったと思うが、すでに代金は貰っている。だから遠慮せずに使ってくれ」
ネオンが俺のためにディラー達をこちらに残してくれたのだろう。ネオンと共に逃げなかったのに、やっぱり優しいな。
最後もしっかり別れを言えなかった。この戦いが終わったら、また会いたいな。
「では遠慮なく。グランクロコダイルを倒すため、爆発物を手配しました。それを口内に投げ込む予定です。そのために今特注でつっかえ棒を作ろうかなと。口を開いたままにできるなら何でもいいんですけど。何か伝手とか無いですか?」
「つっかえ棒? どんなのだ?」
「長い鉄の棒で、口が閉じるのを塞ごうかと」
「グランクロコダイル程の咬合力は並じゃねえ。相当太くしねえと駄目だな。そんな変な要望にも応えてくれる鍛冶屋に心当たりがある。今すぐ行くぞ」
「ありがとうございます。ですがお金足りるかな」
「ほらよ。ネオンさんからだ」
ディラーから革袋が手渡される。中には、八十金貨が入っていた。本当に半分俺のために渡してくれたのだ。律儀な人だ。残りは貰っていいと言ったのに。
「ありがとうございます」
「良い女だな」
別にそういう仲でも無かったが、ネオンが褒められること自体は嬉しかった。
「はい。行きましょう」
ディラーに案内されたのは、大きな工房である。中からは鉄を打つ音が聞こえてくる。
「オヤジ、ディラーだ! 急ぎの用がある!」
ディラーは中に入ると大声を上げる。すると、奥の方から小柄でがっしりとした体型のおっさんが現れる。ドワーフだ。
「久しぶりじゃねえか、ディラー。いきなり何の用だ?」
「実は明後日、グランクロコダイルが出る。それを殺すために、口を開かせたままにする鉄の棒が必要なんだ」
「い、いきなりなにを言って……。マジなようだな」
ディラーの本気の様子を見て、本当のことを言っていると感じたらしい。
「グランクロコダイルの咬合力に耐えられるようなもんが必要だ。なんとか作れねえか?」
「おいおい、本物なら鉄の盾だって一瞬で曲げられるほどの力だぞ……。明後日なんて……うーん」
ドワーフのオヤジが伸びきった口髭を触りながら、何かを考える。
「ここなら色んな武器があるんだろう?」
ドワーフのオヤジは、しばらく考えた後、目を見開く。
「あれなら……なんとかなるかもしれねえ」
オヤジが不敵に笑う。
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