嫌いだぜ
翌日、夜明けとともに都市クロノスの北部と南部にボピンファミリーの構成員が同時に襲撃を行った。
武器を持つ構成員達が町を荒らすように暴れまわる。
「おらあ! こんな好き勝手にこの規模の都市を暴れまわれるなんて最高だな!」
好き勝手暴れながら一人が言う。
「だが、誰も居ねえな? まるで廃墟だ。人が住んでいた後は残ってるのによお」
そう呟くのも無理はない。なぜか彼らの暴れている北部の家から人が消えていた。
「この襲撃も読まれてたんだろう。未来予知だっけ? 未だに半信半疑だが……こうも人っ子一人居ねえと不気味だな」
構成員の予想は当たっていた。あらかじめ襲撃を予知したシビルが領民を避難させたのだ。
町を堂々と闊歩する構成員達に矢の雨が降り注ぐ。
「ぐあああ! どこからだ?」
周囲に敵兵の姿は見えなかった。周囲の家の窓から矢じりの反射する光が見えた。
「こいつら、家の中に潜んでやがる! 中に入って殺せ!」
「放てえ!」
イヴの号令と共に再び矢の雨が降り注ぐ。矢の雨で敵兵は減ったもののまだ多くの構成員が残っている。
彼らが矢が降って来た家へと流れ込む。
「ぐええ!」
家に侵入した瞬間、彼らは穴に落ちた。時間がなかったため、シンプルな落とし穴だが、まさか家の中に仕込んでいるとは思っていなかったらしい。
穴に落ちた構成員達に、槍の雨が降り注ぐ。どこも成功したのか、多くの家から悲鳴が聞こえる。
「まだ……敵の方が多そうね」
イヴは二階の窓から外を見る。
混乱している構成員の中で、一人だけ落ち着いた男がいる。司祭服を着た男は、女性とその娘の髪を掴み、引き摺っていた。
「お願いします……娘だけは……」
母親の必死の懇願が町に響く。
「ほう。ならばお前か、娘どちらかのみ救ってやろう」
その男は笑う。
「本当ですか? では娘を!」
母親が大声を上げる。
「では、娘を救おう」
男はそう言って、母から手を放すと、剣を娘に向ける。
「風弾!」
次の瞬間、風の弾丸がその剣を弾き飛ばした。
男は不快そうに弾丸が飛んできた方向に顔を向ける。
「屑が……!」
そこにはレイピアを携え男を睨みつけるイヴの姿があった。
「これはこれは。騎士様が遂に自慢の穴倉から出てきたか。俺はベッカ。ボピンファミリーの幹部をやってる。お見知りおきを」
そう言って、恭しく頭を下げる。
「娘は助けるのではなかったの?」
「この救いのない世界から、救うと言ったんだよ。勘違いされては困るな。それにしても仲間も随分と少ねえな。二百も居ねえ。捨て駒にされたか?」
周囲を見渡しながら馬鹿にするように笑う。
「貴方如きならこの数で十分よ」
「ハハハ。その人数で、勝てるとでも? お前達、見捨てられたんだよ! 貴族の捨て駒にされたわけだ!」
「愚かね、上も信じられないなんて。貴方の上はそういうひとなのかしら?シビルは、私なら守れると、そう信じて送り出してくれたのよ。 私はシビルを一度もうたがったことなんてないわ。あの人は、部下が犠牲になるくらいなら、自分の身を斬るような、そんな人。だからこそ、命を懸ける価値がある。 イヴ・ノースガルド参る」
イヴはレイピアを上に掲げながら高らかに告げる。
「中々信じてるみたいじゃねえか……! 嫌いだぜ!」
ベッカは顔を歪ませながら言った。
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