ボピン
とある町に大きな屋敷があった。表面上は綺麗だが、町の者は誰もその周囲には近づかない。周囲に近づいた者は誰一人戻らず、官憲すらも避ける場所となっていた。
その地下には二人の男女が捕らえられていた。
男女の顔は恐怖で歪んでおり、涙を流しながら叫んでいる。
「た、助けてください! お願いします、なんでもしますから!」
男は両腕を後ろで括られており、頭を地面につけ必死に頭を垂れる。
その目の前に立っているのは、司祭服を着た三十代の男。
頬はコケており、目の下には大きなクマがある。唇は真っ青に染まっており、顔はお世辞にも整っているとは言えなかった。
でこが見えるくらい上でパッツンと切られた前髪も、すべてが彼の異常性を現していた。
「なんでもする……? なら祈りなさい、アスガルド様に。さすれば必ず救済されますよ!」
司祭服を着た男は両腕を広げ、男に告げる。
「はい!」
捕らえられた二人は必至で祈りの言葉を口にする。しばらくして、救いを求めるように司祭服を着た男の方を見る。
「素晴らしい! アスガルド様も心神深い貴方たちをお救いになるでしょう」
司祭服を着た男はにっこりと笑う。
「では、助け――」
男の言葉が止まる。その男の心臓には短剣が突き刺さっていた。口から血が零れ落ちると、そのまま男は倒れこみ、二度と動くことはなかった。
女は怯えた顔をしながら声を振り絞る。
「救済されるって……」
「我々人間にとって、死のみが救済ですよ!」
「嘘つき! 嘘つき! 頭おかしいんじゃない! この異常者が!」
女が叫ぶ。司祭服の男は気にすることもなく、女の心臓を一突きした。
動かなくなった女を見ながら、司祭服の男は微笑む。
「今日もまた、多くの者を救済できましたね。ベアル! 食事を」
「ボピンさん、今持ってこさせます」
司祭服の男、ボピンの声を聞き、部下の男が地上に戻る。地上ではボピンの食事が用意されていた。
皿の上には、魚の骨だけが大量に積まれている。
「え……? なんですか、これ? 残飯?」
一人の男が魚の骨を見て呟く。
「おい、新人。絶対ボピン様の前でそんなこと言うなよ。ボピン様は基本、骨しか食べねえんだ。ほら、もってけ」
「へい」
先輩に叱られた新人は、皿をもって地下への階段を下りる。
「異常者じゃねえか……」
新人は少し引いたような顔で、骨を見つめていた。
「食事です」
新人はボピンの前に皿を置く。それを、ボピンは首を傾げながらじっと見つめている。
「新人ですか?」
「はい! 傘下のエイスファミリーから、異動してきました!」
「そんな君に、ご飯を上げましょう。口を開けて下さい」
そう言って、魚の骨をつまみ、上にあげる。
(要らねえよ……)
「いえ、そんな!」
「開けて下さい」
静かに、告げるボピン。
「はい……」
諦めて口を開く新人。
次の瞬間、ボピンの短剣が新人の首を斬り落とした。
戻って来たアンダーボスであるベアルが、首だけになった新人を見て、声を上げる。
アンダーボスとは組織のナンバー2を指す。
「ボピンさん、ご報告が……って、何してるんですか!」
「ベアル~。こいつはペリドットのネズミですねえ。こんなゴミを送ってくるなんて、舐められたもんですよ」
そう言って、ボピンは自らの舌を二回軽くたたく。
ベアルは、首だけとなった新人の舌を確認する。そこにはペリドットファミリーの紋章が刻まれていた。
それを見たベアルはやらかしたという顔になった後に頭を下げる。
「見逃してました……すみません」
「まあ、いいです。それより何か報告があったのでは?」
「へい。上から命令が。元クラントン領、現グロリア領のスラムを牛耳り、グロリア男爵を殺せ、とのことです」
「クラントン領? あそこは雑魚しか居ませんから気が乗りませんね~。お断りしなさい」
ボピンは魚の骨を砕きながらあっさりと言う。
「それが大ボス、直々の命令らしいんですよ。」
「ん? それは珍しいですね~? 断ると面倒そうです。基本上の上からの命令、断り続けてますからねえ、うちは」
悩む表情を見せるボピン。
「あっ、そういえば大ボスからメッセージが。『グロリア男爵を殺せば、遺灰のありかを伝える』とのことです」
それを聞いたボピンは目を見開く。
「……やっぱり知ってやがりましたか。いいでしょう、グロリア領を救済に向かいます」
「承知しました」
「それにしても、遺灰を餌にしてでも殺したいほどの男……気になりますねえ」
ボピンは暗い笑みを浮かべた。
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