馬鹿だなぁ
クロノスの商人ギルドもノーダメージとはいかなかったが、まだ余裕があった。
このままの状況が続けば、先に倒れるのは二領の方だろう。
ネオンは商人ギルド内で、集まった資料に目を通していた。
「オズワルド領が思ったより粘っているのよね。想定より事前に食料を備蓄してたのかしら?」
ネオンが見ていたのは、商人ギルドが集めた商品のリストである。文字を追っていたネオンの目がある部分で止まる。
「クロノスに届いている食料の量が少ない。フクベル商会の納入量が、予定よりも少ないわね……。少しシビルに調べてもらおうかしら」
ネオンは屋敷に向かった。
シビルの屋敷は前よりも忙しそうな雰囲気が漂っている。
グロリア領も経済封鎖の影響はやはり受けているのだろう。
ネオンはシビルのいる執務室の向かう。
「おっ、ネオンか。無事商人を動かしてくれたおかげで、助かったよ。あちらの方がこのままだと先に音を上げるだろう」
シビルはネオンの顔を見て、笑う。
「あんた、また疲れた顔してるわねえ」
「やっぱり苦情が多くてね。文官の数が少ないのもあってな。今日はどうしたんだ?」
「なによー、用がなくちゃだめなの? 暇だから、来たのよっ!」
ネオンはそう言って、シビルの額にデコピンを決める。
「いてっ」
「少し寝なさい。疲れ顔じゃ心配されるわよ」
そう言って、ネオンは執務室を出て行った。
「なんだったんだ、いったい……」
シビルは額を押えながらそう呟いた。
ネオンは屋敷から出ると、大きく深呼吸をする。
「あんな大変そうなのに、これ以上負担になることは話せないわ。私が、なんとかしないと……」
ネオンはそう言うと、馬に乗りフクベル商会へ向かった。
フクベル商会はオズワルド領の西にあるトラン領にある。
「もう……遠いのよ。ここらへんのはず」
ネオンはギルドにあった地図を頼りに、フクベル商会の店舗を探す。
しばらく歩くと、フクベル商会と書かれた看板を掲げた店舗を見つける。時間は昼頃、今は書き入れ時のはずだが、人の気配がない。
窓から中を覗くも、誰もいない。
「居ないわね……どこか出かけているのかしら」
ネオンは警戒しながら、周囲を探す。
すると、裏にフクベル商会の大きな倉庫を発見する。
中に食料がある可能性を感じたネオンは倉庫へ向かう。
そこでネオンは声を聞いた。声の先には、恰幅の良い男と、防具を纏った兵士達の姿があった。とっさにネオンは壁に隠れる。
「じゃあ、三百箱納品ということで」
「助かる。最近は町から食べ物が減っていてな」
兵士はそう言った。兵士の防具の胸部にはオズワルド領の紋章が刻まれている。
(やっぱり……! フクベルの奴、オズワルド領に食料を横流ししていたわね。半年はこちらに全て卸す契約になっていたはずなのに)
ネオンは決定的瞬間を見てしまったためか、少し前のめりに彼等の取引を見ていた。
「ん……? 誰だお前は?」
周囲を警戒していた兵士がネオンに気付く。
「ごめんなさい。私、この近くの宿屋に働いていて……」
ネオンはとっさに宿屋の娘を騙った。
(この嘘で逃げ切れるか……? 馬までは距離がある)
だが、恰幅の良い男は少しネオンの顔を見つめた後、大声をあげる。
「奴は確か、グロリア男爵の新しい御用商人だ! 若い青髪の女だった!」
(ばれた……!)
ネオンが思っているより付近の貴族の御用商人というのは、商人の関心は高かった。
「お前達が買い占めてたのか!」
兵士達はネオンの素性を聞いて、剣を抜く。どうやら中々恨まれているようだ。
「知っててもらって光栄ね。そっちが経済封鎖してきたんじゃない。あんた、フクベルでしょう? 商人というのは誰よりも契約を優先するものよ。契約を反故にしたことがばれたら、もうやっていけないわよ?」
相手を責めたてるもののネオンの背中は冷や汗をかいていた。兵士は四人、とても逃げ切れるとは思えなかった。
「それはばれたらの話だろう? 一人だろう? 逃げ切れると思っているのか?」
恰幅の良い男、フクベルは嘲るような表情を浮かべる。
「生意気な女だが、顔は可愛いな。連れていくか」
兵士の一人が下卑た顔でネオンに近付きその腕を掴む。
「やだ、離して!」
ネオンの平手打ちが兵士の頬に当たる。
「てめえ、何しやがる! たかが商人が、調子に乗りやがって!」
そう言って、兵士が剣を抜いた。
ネオンは死を覚悟して目を閉じる。
(一人で無理なんてしたから……馬鹿だなあ)
兵士がその剣を振り下ろす。
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