どこを目指す
「ガキがあ……! 調子に乗るなよ?」
まさに鬼。子供食べそうなくらい迫力あるな。
「要らないのなら構いませんよ。次にバルログを手に入れられるのはいつでしょうね」
俺はにっこりと笑う。
イヴの母は血走った目で、イヴに目線を向ける。
よほど謝りたくないのか、わずかに震えながら悩んでいる。
しばらく迷った後にようやくイヴの母は頭を下げる。
「わる……かった」
そう小さく呟いた。
これ以上無理をさせると今後にも影響でそうだしやめておくか。
「イヴの見合いの件も白紙にしてくださいますよね?」
「一旦白紙にしてやるよ。それで満足かい? 寄越しな」
「一旦では困るんですよ。完全に白紙にして下さい」
「たかが男爵に大事な娘をやれるかい。図々しい」
何が大事な娘だ。やべえおっさんのところに行かせようとした癖に。
それを聞いていた父が俺達の間に突如入って来た。
「アルマの言う通りで、ただの男爵に娘はあげられない。だが、君が本当に優秀で将来有望ならその限りではない。この三年の間に君が子爵になることができたのなら、婚約を完全に白紙にしよう。どうだい、アルマ?」
イヴの母はそれを聞いて、考えるそぶりを見せるも最後には頷いた。
「良いだろう」
「仕方ありませんね。分かりました」
俺は渋々納得するそぶりを見せる。だが、俺は最初から、この言葉を待っていたのだ。
「ほら、寄こしな」
俺は予め用意した誓約書にサインをさせ、そのあとイヤリングを渡す。
イヤリングを受け取ったイヴの母は、露骨に嬉しそうに顔を歪ませる。
「やっと、バルログの品を手に入れたわ! オーホッホッホ! ローデスの婆、いつも私を馬鹿にしやがって!」
イヴの母は飛び跳ねんばかりの勢いで、どこかに消えていった。
イヴの母が消えた後、父が頭を下げる。
「すまないね。アルマが迷惑をかけた」
そう言って頭を下げる。
「ノースガルド伯爵、頭をお上げください」
「これは、伯爵ではなく、父としてだ。君も知っているとは思うが僕は入り婿でね。そこまで強く言えないんだ。おかげで今みたいなことになってしまった。君のスキルについても、少しだけ聞いているよ。一部の未来が読めるとか。正直内政の方がむいているんじゃないかい? なぜ軍人に?」
父の目をしていた。俺は今、義理の息子にふさわしいかどうか確認されているのだろうか?
「最初は成り行きです。ですが、戦っているうちに、戦友が、守りたい人が増えました。俺は彼らが死なないように、この力を使いたいと思っています」
「なるほど。確かに君は強くなって、結果を残した。どこを目指すんだい?」
どこを目指す、か。
「俺はローデルの不敗の象徴になろうと思います。俺が存在する限りローデルには手が出せないと、他国や誰もがそう思うような圧倒的な軍の象徴に。ローデルに手を出すなんて馬鹿だ、そう言われるような圧倒的強さを」
まるで夢物語だ。けど、そのために俺は今必死で出世しているのだ。
「ほう、面白いね。若さゆえとも言えるが、そういうのは嫌いじゃないよ。楽しみにしている。何かあったら助けになろう」
そう言って、ノースガルド伯爵は笑った。
泊っていくのか聞かれたが、丁重に辞退した。
あの婆のいるところでゆっくりできるとも思えない。
イヴは久しぶりの実家ではあるが、一緒にすぐ戻るようだ。
「まだ結果も出せてないから……」
そう言ってはいるもののやはり実家に居辛いのだろう。
「そっか」
「ありがとうね、シビル。色々用意してくれたみたいで。私だけじゃ説得できなかったと思う」
「どういたしまして」
俺達はグロリア領に戻った。
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