手紙
どっきりか? 罠か? 本気なのか? え、普通に嬉しいが、喜んでいいのだろうか。だが、そんな前兆はあったのか? 俺が気付いていないだけだったのか? 俺が鈍感だったのだろうか。
分からない。突然のことに頭がパニックになる。
頭の中を、大きなかき混ぜ棒でかき混ぜられたみたいだ。
メーティスに尋ねるべきか。それはマナー違反なんじゃないか。
いや、ここは男らしく、はっきり言うべきだ。
「イヴ――」
「ごめん、緊張しちゃって、大事な部分を端折っちゃった。付き合う振りをしてほしいの!」
イヴは両手を合わせて、謝罪する。
危ねええええ!
罠じゃねえかあああ!
早とちりするところだったわ。
今までで一番引っかかったわ。
「付き合う振り?」
ちょっとよくわかんない。誰に? 誰かに付きまとわれているんだろうか。
「何かあったのなら、力を貸すよ」
「実はね……最近初めて親から連絡が来たの。それ自体は嬉しいことなんだけど、中身がね。結婚を前提としたお見合いが来てる、って。相手が、ちょっと問題ありそうで、困ってるのよ。で、断るにはどうしたらいいかアンジュさんに相談したら、シビルのところに行けばいいって。あっ、そういえばアンジュさんからも手紙もらってたから渡しておくね」
そう言って、イヴから手紙を渡される。
お見合い……一体どんな相手なんだ? 疑問を持ちながら、手紙を開く。
『シビルへ。
元気かしら。叙勲おめでとう。大活躍ね。本当に大魔境から帰ってくるとは思わなかったわ。一皮むけたんじゃないかしら。あっ、一皮って下ネタじゃないから勘違いするんじゃないわよ。ちゃんとあんたが出世できるように、上には伝えといたから。まさか男爵にまでなるとは思わなかったけど。
話がそれたわね。イヴちゃんが困ってるの。相手の男は五十代なんだけど、もう五人ほど奥さんと別れているわ。そして、奥さんに平気で暴力を振るい、自由も許さないような下種野郎。そんな男の元へ嫁いでも幸せになんてなれない。男ならもちろん助けるわよね。それ以外の選択をするように育てた覚えはないわ。あんたは今第三師団所属になってるから私は上司よ。イヴちゃんを貴方の隊の小隊長にしたから、部下として面倒みてあげなさい。大切にしないと、あんたの領土に雷を降らせるから。
PS.ダイヤちゃんも、しっかり鍛えてあげてるから安心しなさい。
アンジュ』
名前の横には、キスマークがこれでもかというくらい濃くついていた。何してんだ、あの人。
いつのまにか、俺あの人の部下になったのか。そして育てられた覚えはない。つっこみどころしかない手紙だった。
話を聞いている限り、絶対に見合いなんてさせるべきじゃない。イヴが困っているなら俺は助けるだけだ。
「イヴが困ってるなら、俺は手を貸すよ。恋人の振りをすればいいんだよね?」
俺の言葉を聞き、イヴが安心した顔に変わる。
「本当⁉ ありがとう! これからよろしくね、隊長さん?」
そう言って、ウインクするイヴ。
そうか、俺はイヴの上官になってしまったのか……。
「じゃあ、一週間後くらいにうちの家に来て? 結構遠くて、迷惑かけるけど。ごめんね」
「いいよ、別に」
俺はそう言いながらも、脳内ではパニック寸前だった。
えっ、挨拶ですか⁉ 娘さんを僕にください的な奴しないといけないの?
いや、そこまでする訳ないか。
確かイヴの実家って、ノースガルド伯爵家じゃなかったっけ。思ったより大事になるそうだ。そりゃあ確かに誰にでも任せられんな。新人男爵が行って相手にされるんだろうか?
俺は覚悟を決めていた。
それにしても、さっきから屋敷が騒がしくないか?
「リーシェン、なんか屋敷騒がしくない?」
「先ほど、イヴ様の言葉を聞いた侍女が走って中に消えていきましたよ?」
なんだって?
嫌な予感がする
「とりあえず、中に入ろうか。イヴ」
「そ、そうね……」
イヴもさっきの発言を思い出したのか、少し顔が赤い。
そして俺達は女性陣の情報網の凄さを知るのだった。
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