感謝を
その夜、ダイニングルームのテーブルにはオズワルドの言った食べ物が所せましと並んでいる。
オズワルドは周囲を見渡すも、女の姿はない。
探すも、世界一の女など用意できなかったのか、とほくそ笑む。
「流石のシビル殿も呼ぶことはできなかったか!」
と高笑いするオズワルド。
「いえ、あちらに来ておりますよ」
そう言って、シビルは扉を指さす。
(たとえどんな美女が来ようと、必ずいいがかりをつけてやるわ! 愚か者があ!)
オズワルドは鋭い眼光を扉に向ける。
侍女の一人が扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。
「なっ……!」
それを見たオズワルドは、目を見開き、言葉を失った。
扉から出てきたのはまだ二十前の少女と大人の間といえる女性だった。
化粧っけもなく、髪は三つ編みして後ろに流している。絶世の美女というより、素朴な村娘といった様子だった。
このような貴族の場に慣れていないのか、少し緊張しながら言葉を発する。
「あ、あの、本日はお招き頂きありがとうございます。メリーと申します」
そう言って、メリーは頭を下げる。
どんな女性が来ても、クレームをつけようと意気込んでいたオズワルドが、呆けたような顔でメリーを見る。
まるで、幽霊でもみたかのように止まってしまった。
口をぱくぱくと、わずかに動かすオズワルドに失礼でもあったのかとメリーが怯える。
「あ、なにか失礼でもしてしまいましたか?」
「い、いや……大丈夫だ。しっかりと作法は守られておる。良い親を持ったな。母の名は、なんと、言う?」
オズワルドはなんとか、言葉を発する。
「お母さんは、メリダと言います」
その言葉を聞き、オズワルドは動揺から手がわずかに震えていた。
「メ、メリダ……か。酒を入れてくれんか? そして、君の話を聞かせてくれ」
「は、はい……」
オズワルドの目元がわずかに光っていた。メリーの話を聞いて、オズワルドは優しい笑みを浮かべる。
(そうか……。メリダ、君は今も元気なんだな。それだけで俺は嬉しいよ)
オズワルドはただ、幸せそうにメリーの言葉を聞いていた。
オズワルドの家は、厳しい貴族の家系だった。上昇志向は強く、だが、実力不足により男爵以上にはあがれなかった。
オズワルドは出世のために、結婚相手は貴族の令嬢しか許されなかった。
そんなオズワルドが初めて恋に落ちたのは貴族とは程遠い小さな商店の娘メリダだった。二人は内緒で愛を育み、そしていつしかその愛は実を結んだ。
だが、それは許されるものではなかった。
よくある話だ。メリダは、オズワルド家の他の者にメリーのことがばれた場合、殺されると考えた。
そして、メリダは何も言わずに、オズワルドの元を去ったのだ。
オズワルドは涙を流し、慟哭した。メリダにではない。自分の立場、にだ。メリダの考えはよくわかった。自分の両親は、商人との子など許さないだろう。
オズワルドはメリダや子供に迷惑をかけなくないので、探しはしなかったが、その後メリダ以上の女性と会うこともできず悪戯に時間だけが過ぎていった。
(会えないと思っていたが、自分の娘と会うことができるなんて、な)
それほど、メリーはメリダの若いころにそっくりだった。それ以降、オズワルドはクレーム一つつけることもなく、幸せそうにメリーと話していた。
オズワルドは、今までの空白を埋めるようにメリーと楽しく話した後、自分が親であることを告げることもなくメリーと別れた。
「世界一の女性はどうでしたか?」
シビルが尋ねる。
「ああ、確かに世界一の女だったよ。俺の負けだ。ただ君に感謝を」
そう言って、オズワルドは頭を下げた。
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