まだ終わらんぞ
馬車で揺られ、昼頃ようやく一行はシビルの屋敷に到着した。
(到着時間は正確には分らんだろう。すぐさま飯をねだってやるわ。少しでも冷めていたら、文句を言ってやる!)
「シビル殿。俺は長旅で腹が減っているが、昼食の一つもでないのかね?」
オズワルドの言葉に、シビルがにっこりとする。
既にオズワルドは嫌な予感を感じていた。
「もちろんご用意しておりますよ。こちらへどうぞ」
(やっぱりかああ! 畜生! ここらじゃとれないものばかり要求してやる!)
「俺はグルメでな。決まったものしか食べんぞ! 具体的には、橙鶏のポークソテーに、クレイキャベツのサラダ。爆弾トマトのナポリタンに、アコーン豚の布団蒸しだ」
どれも帝国では採れないものばかりだ。
だが、シビルの返答はオズワルドの予想を上回った。
「流石、グルメのオズワルド様です。すべてご用意してますよ」
それにはさすがのオズワルドの部下も信じられないといった表情を浮かべる。だが、今までの流れを考えると嘘だと一蹴することもできない。
皆恐る恐るダイニングルームへ向かう。
するとそこにはまるで予言されていたかのように先ほど伝えた料理がすべて、湯気を出しながら並んでいた。
オズワルドはあまりの用意周到さに、完全に恐怖を覚えた。
「な、なぜ、分かったのだ……?」
オズワルドは恐る恐る尋ねる。まるで自分の言うことがすべて読まれているのではないか、と思ったからだ。
「いえ、あらかじめオズワルド様の好物をうかがって、すべて用意させて頂いただけですよ?」
シビルは飄々と答える。
オズワルドはすべて食べきった。文句の付け所がないくらいどれもおいしい料理だった。
(駄目だ……全て読まれている気がする。だが、こちらもここで終わるわけにはいかんのだ! 必ずバーナビー様の戦のきっかけを……!)
オズワルドは布巾で口元を拭くと、再びシビルに口火を切る。
「風呂に入りたいな。大浴場でグラディラ風呂に入りたい」
グラディラとは柑橘系の果物で、貴族の妻はたまにグラディラを浮かべた風呂に入る。
だが、オズワルドは自分がグラディラ風呂に入るなんてことを誰一人話したことはない。
「畏まりました。侍女がご案内しますよ」
「流石はシビル殿ですな……。有難く入らせてもらおう」
オズワルドはグラディラが大量に浮かんだ大浴場に入って、ぼんやりと宙を見る。
温かく、グラディラの匂いが香る風呂はまさに極楽。顔もおもわず緩んでしまう。だが、オズワルドはすぐさま顔にお湯をかけると、顔を引き締める。
「敵ながら天晴よ。だが、まだ終わらんぞ……。奴が用意できるものにも限界があろう」
オズワルドは勢いよく風呂からでると、クレームをつけるために再びシビルの元へ向かった。
その後、二日間。オズワルドはひたすらクレームをつけ続けた。だが、そのすべてはシビルに先回りされ、徹底的に糾弾できるものは一つもない。
(くそ……! 屋敷も異常なくらい綺麗だ。埃からのクレームは基本なのだが。埃一つ落ちておらんわ)
オズワルドは窓の隙間を指でなぞるも、埃はない。
(今日で三日目。明日には戻らねばならんのに、このままでは……これしかあるまい)
オズワルドは鋭い眼光をシビルに向ける。
「これまでのサービスはなんとか及第点と言えよう。だが、男をもてなすには足りないものがあるのではないかね。夜の食事の場には、世界一の女性を呼んでもらいたい」
オズワルドは下種な笑いを浮かべる。
(これだ……! 世界一の女性とは、実にあいまいなものよ。どんな美人を連れてきても、クレームをつけてやる。人間である以上必ず文句のつけようがある。お前の負けだ、シビルゥ!)
オズワルドの言葉を聞き、シビルは再び優雅に笑う。
「畏まりました。必ず、世界一の女性を連れてまいります」
「それは……楽しみだ」
オズワルドは勝ちを確信していた。それ故、シビルが笑みを浮かべているのに、オズワルドは気づいていなかった。
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