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オズワルド

 バーナビー領で最も大きい屋敷は、もちろんバーナビーの屋敷である。その屋敷に一人の訪問者がいた。

 その男は、応接間で頭を地につけて、額が真っ赤になる勢いで土下座していた。


「た、大変申し訳ございません! つ、次は私めが直接向かいますので……!」


 それを淡々とバーナビーは見ていた。男は暗殺者ギルドの長であった。


「もうよい。トーチカがやられたのなら、お前が行っても同じだ」


 バーナビーは紫煙をまき散らせながら、言う。


「ならば、精鋭を十人以上送り、片付けます!」


 男は自分の死を感じながらも、懸命に言葉を紡ぐ。


「無駄だ。奴に暗殺は通用せんのだろう。お前とも長い付き合いだ。今更殺したりはせん。安心しろ。元の仕事に戻れ」


「は、はい!」


 男は顔には出さなかったが、安心しながら部屋を出て行った。


「よろしかったので?」


 腹心であるコックチャックが尋ねる。


「今更、長を挿げ替えるのも面倒だからな。それに……失敗するだろうと思っておったからな。次はどうしてやろうか」


 バーナビーは次なる策を考え始める。


「バーナビー様。オズワルド男爵がお見えです」


 メイドが扉の向こうから、声をかける。

 オズワルド男爵はバーナビー陣営の一人である。四十歳ほどの痩せた男で、バーナビーは彼を気に留めてなどいない。

 呼んだ覚えはないが、と思いつつも穏やかなバーナビー公爵の顔に戻る。同じ陣営でも末端のオズワルドはバーナビーの正体を知らないのだ。


「ああ、呼んでくれ」


 少しして、オズワルドが部屋にやってくる。


「バーナビー様、お久しぶりです! 会えて光栄でございます」


 そう言って、オズワルドは深々と頭を下げる。


「久しいな、オズワルド男爵。元気そうで何よりだよ」


 バーナビーはそう言って、にっこりと笑う。憧れともいえるバーナビーの優しい言葉に、オズワルドはすっかり舞い上がる。オズワルドはしばし世間話をした後、切り出す。


「バーナビー様、最近あの若造と何かあったのではないでしょうか?」


 あの若造とは、シビルのことだろう。バーナビーはなぜこの男が知っているのか、疑問に思った。


「シビル君のことかい?」


「逃げるように、この屋敷を去ったと聞きましたぞ。バーナビー様に対して、そのような無礼、決して許されることではありません。このオズワルドにお任せください。必ずや、奴に地獄を見せましょうぞ」


 オズワルドは鼻息荒く言い放つ。

 普段関われない大公爵の前で良い恰好をしたいのが、見え見えである。

 バーナビーは話している間にオズワルドについて思い出す。


「既に奴に連絡はとっております。奴の名を地に落とし、破って見せましょう」


 バーナビーは、確かにこいつなら今回の件でも使えるのではないか、と考え直し始める。


「あまり大事にするつもりはないが、君がそう言うのなら任せよう」


「お任せを! 奴に後悔させて見せます!」


 バーナビーは張り切るオズワルドをよそに、思考する。


(失敗もまた一興。奴は新米貴族。貴族らしい嫌がらせにどう対処するか、見ものだ)


 バーナビーは笑った。

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