御用商人
ゴランの予想とは裏腹に、ゴランが居なくなった後の炊き出しでは、人がやって来た。
普段は夜の仕事をしている女性陣が、笑顔でご飯を配っていたら罠と分かっていても馬鹿な男達は群がってしまうのだ。悲しきかな。
男達が笑顔で食べているのを見て、子供達も少しずつ炊き出しの方にふらふらと近づいていく。
「はい、坊や。どうぞ?」
笑顔でお椀を差し出されると、要らないとは言えない子供達は素直に受け取った。そして、恐る恐る口に入れる。
「美味え!」
「本当だ、美味しい!」
子供達の顔に笑顔が広がる。普段は温かい食べ物は食べない子供達だ。あっという間に、お椀は空になった。
ゴランが居なくなった炊き出しは大好評で、五十杯以上食べられた。
人の列も落ち着いた後、ゴランは何とも言えない顔で鍋の元へ向かう。
「ほとんど、食べられてんじゃねえか。本当に俺のせいかよ……」
ゴランが悲しそうな顔をしていると、目の前にお婆さんがいた。
「一杯、くださるかしら?」
それを聞いたゴランの顔がわずかに綻ぶ。
「し、仕方ねえな。味わって食えよ」
ゴランはお椀に料理を掬う。今日は野菜たっぷりスープだ。
「ありがとう。大事に食べるわね」
お婆さんはゆっくりと口に入れると、笑う。
「とっても美味しいわ。あなたが作ったの?」
「……そうだ」
「料理がお上手ね。また食べたいわ。これからもするのかしら?」
「まあ、たまにはな」
「そう、頑張ってね。スラムで炊き出しなんて、中々できることじゃないわ。とっても素敵よ」
お婆さんは綺麗なお辞儀をすると、去っていった。
ゴランはその後姿を静かに見守っていた。
「良かったっすね。ゴランさんに怯えない人もいて」
部下が顔を出す。
「うるせえよ」
ゴランが部下の頭に手刀を落とす。
こうして、ゴランファミリーの炊き出しは少しずつ受け入れられていき、スラムの名物になっていくのだった。
その頃、ある人物がグロリア領に到着した。
「本当になっちゃうなんて……元気かしら」
少女は髪をかき上げ、笑った。
俺が大量に積まれている書類の山を片付けていると、リーシェンから声がかかる。
「主。客だ。商人らしいが、どうする?」
商人? 商人の知り合いは一人しかいない。
俺は筆を置くと、応接間に向かった。
「ネオン!」
そこには、朗らかに笑うネオンの姿があった。
「久しぶりね。本当に貴族になっちゃうなんて、やるじゃない」
「気づいたら、男爵になってたよ。今に騎士団団長になるから待っててくれ」
「言うじゃない。全然戦えなかった癖に……。けど、今はもうそんなことはないのね。強くなったのが分かるわ。軍人の顔になった」
そう言って、ネオンの掌が俺の頬に触れる。
温かい。綺麗だけど、仕事で少しだけ皮が厚くなった商人の手だ。俺は少し恥ずかしくなって、言葉を発する。
「ネオン、領主には御用商人が必要だ。俺にとって、商人は君しかいない。頼めないか?」
「良いわよ。任せない! 世界一の商会になるネオンビル商会が、力を貸しましょう!」
二つ返事だった。
「ありがとう! 今までのお礼、っていうのも変だけど、土地を受け取ってくれないか? 俺個人所有になった土地がクロノスにあるんだ。いい場所だから、商会を開くのにもぴったりだと思う」
俺はお礼に土地の提供を願い出る。
それくらい、何度もネオンに世話になった。
だが、ネオンは俺の申出を手で制する。
「気持ちは嬉しいけど、それは絶対に受け取れないわ。私は商人なの。欲しい物は、自分で買う。だから、無償で受け取ることはできない。これは商人としても、私のプライドの問題なの。ごめんね」
彼女は堂々と、凛とした雰囲気で言い放つ。
彼女らしい、誇り高い言葉だった。
「そうか……悪かった。商人として、買ってもらうのを楽しみにしてるよ」
そういうと、ネオンはにやりと笑う。
「立地って大事なのよね。まずはどこに建てるか、考えないとね。記念すべき実店舗第一号だもの。これから忙しくなるわ。稼げるように一杯仕事頂戴ね?」
「ああ。一杯やるよ」
こうして、ネオンが御用商人になった。
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