時間切れ
「いや……本当に驚いた。エンリケにしか見えんな。顔も話し方も、内容もだ」
シャロンは感心するようにエンリケを見つめる。
「何を言っているのですか? 鍛錬のやりすぎで、頭まで筋肉になったのでは?」
「次は外さん」
シャロンはそう言うと、剣でエンリケめがけて突きを放つ。
金属が交わる、音が響き渡る。
シャロンの剣はエンリケの短剣に直前で止められていた。
エンリケは、自らの首元に手をやるとその顔の皮を剥いだ。そこにはトーチカの顔があった。
「驚いた……。俺の変装がばれたのは初めてだ。どうして分かった?」
トーチカは邪悪な笑みを浮かべる。
「なに、変装は完璧だった。だが、お前がエンリケに化けるのを知っていたのさ。天使の唄!」
シャロンの体に光が集まり、その全身が神々しく輝く。
「聖騎士か……!」
トーチカは一瞬で距離を詰めると、シャロンの首に短剣を向ける。シャロンはそれを盾で止めると剣を薙ぐ。
それは軽くバックステップを踏んだトーチカになんなく躱されてしまう。
「隊長、我々も加勢します!」
護衛としていた兵士たちが剣を構える。
「いい、下がってろ。お前たちじゃ……一瞬でやられてしまう」
シャロンは剣に魔力をまとわせると、渾身の力で振り下ろす。
「天使の鉄槌」
トーチカも魔力を纏わせると、シャロンの大剣めがけて突きを放つ。
「十六夜突き」
魔力の爆ぜる激しい音が屋敷に響き渡る。二人とも、その力に大きく吹き飛ばされた。
「うーん……普段は暗殺で心臓を射抜くための技なんだけど。純粋な戦闘系スキルってのは面倒だねえ」
短剣を見ながらぼやくトーチカ。
トーチカはもう一本短剣を出し、二刀流に変わる。
激しい攻防が火花を散らす。ここが剣の鍛錬場ならその美しい攻防に皆が息を吞んだだろう。
勝負は互角といえた。
数分の攻防の上、シャロンがため息をつく。
「残念だ……私一人で倒したかったが、時間切れのようだ」
「ん? 味方でも来るのか?」
トーチカが首をかしげる。トーチカは一流の暗殺者でもある。周囲から迫ってくる者がいたら感知くらい可能だった。だが、彼の感知能力をもってしても周囲からこちらへ向かうものは感じられなかった。
「なに……すぐに分かるさ」
シャロンの言葉と同時に、トーチカの腹部が矢によって貫かれた。
体に大穴が空くと同時に、トーチカの口から大量の血が零れる。トーチカはそのまま地面に倒れこむ。
(なっ⁉ ど、どこから? 一体、何で、どこから狙われたんだ⁉)
明らかに致命傷だった。彼はすぐさま気付く。
下から。一階から射抜かれたことに。
(どういうことだ……? なぜ下の階からここまで正確に俺を射抜くことができたんだ? 適当か? 仲間の方が多いのに、それはない。確か、ターゲットは射手だったはずだが……ここまでとは)
トーチカは自分の任務の失敗を、悟った。
「良い主を持っているな」
トーチカはそう言って笑うと、歯に仕込んだ毒を飲み、絶命した。
「お前と違ってな」
シャロンはただ一言そういった。
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