侵入者
「ああ、受け取れ」
その中身は都市クロノスの領主権の譲渡について書かれたものであった。俺達がエンデから奪ったものである。
「確かに金にはなるが……俺の土地からは遠く管理もし辛い。お前が持ったほうが、活かすことができるだろう?」
「ありがとうございます! 助かります!」
俺は頭を下げる。正直クロノスのないグロリア領はかなり厳しかったのだ。
「今まで助けられてきたからな。まさかこんな一瞬で貴族になるとは。お前ほど早い男は見たことがない。すぐに抜かされるかもしれんな」
「俺は帝国一の将軍となり、争いをなくします。ローデルを、不敗の国に。見ていて下さい」
「そうか。お前ならできなくはないかもしれんな。期待しよう。だが、その前に目先のことだ。バーナビーがこのままおとなしくしているとは思えん。対策は取っているのか?」
「そうですねえ……なんなら今夜、暗殺者が俺を殺しにきます」
俺はコーヒーを飲みながら言う。
「なっ⁉ 何を呑気に言っているんだ! 奴が送ってくるということは、暗殺者の中でも凄腕だぞ!」
リズリーさんは立ち上がりながら叫ぶ。
「まあ冷静に。俺に暗殺は通用しませんよ。逆に相手が可哀想なくらい。いつ、どこでどのように狙うか、すべてばれた状態で殺せるのか、果たして」
俺の言葉を聞き、息をのむ。
「修羅場を潜ってきたようだな。自分が暗殺者に狙われていてその態度とは」
「暗殺が一番怖いのは、いつ狙われるか分からないことです。それをあらかじめ知ることができれば……怖くはありません」
まあ、怖いんだけどね。だが、自分が狙う側だと思っている人間は狙われると案外脆い。
「良い結果を期待しよう。クロノスの譲渡だが、既に国の方に許可もとった。数日中にはお前のものになるだろう」
「ありがとうございます」
「構わんよ。あの爺に一泡吹かせてやれ。俺に手伝えることがあればなんでも言ってくれ」
「それでは一つお願いが……」
俺は金を借りることとなった。だって、領地経営にはお金がいるんだよ。収入が入るのはまだ先だし。
リズリーさんは少しあきれながらも金を貸してくれた。
俺はクロノスにある元クラントン家の本邸に移った。やはり中心都市の方が情報も、人も集まる。
夜も更け、人の声よりも梟の鳴き声が響く頃。一人の男が、音もなく屋敷に忍び込んだ。屋上から、窓を開け、天井に潜りこむ。
(なんでえ。警備も素人ばかり。前評判とは随分違うな。大体新人貴族を殺すのに俺を派遣するなっての。警戒心がなさすぎるぜ。所詮は戦しかしらない猪ってことだ)
男はあっさりと侵入できたことで、ほんのわずかだが、油断していた。だが、すぐさまその考えを打ち消す。
(聞いた話じゃあ、未来の一部をできるって話じゃねえか。だが、その割には警備がお粗末すぎるな。俺が何人今まで殺してきたと思ってるんだ)
男は音もたてずに、まるで野生の動物のように天井を駆ける。彼は毒の名手であった。独自で配合した毒は、殆どの者では死因すら特定できないものだった。それを吹き矢に塗って音もなく殺すのが、彼の得意技である。
その目は暗闇ですら、あらゆる物を知覚する。男はあらかじめ調べておいたシビルの寝室の真上に立つと、その毒で床をわずかに溶かした。
溶かした先からは光が見える。
(おっ、見えた、見えた。あれが今回のターゲットか。さっさと殺して……)
次の瞬間、男の口から血が溢れる。
「があっ⁉ な、何が……」
男の腹部には、槍が深々と刺さっていた。男はすぐに気づく。自分は誘い込まれていたのだと。
(馬鹿な……俺は気配など感じなかった! 敵は同業者か……)
男が周囲を見渡した時、既に男の首は宙に舞っていた。
落ちた首を淡々と見つめていたのは、リーシェン。
「うーん、本当に来るトハ。我が主ながら恐ろしいスキルですネ」
リーシェンは男の首を足蹴にすると、顔をゆがませた。
「お前たちと一緒にしないでほしいですヨ。うちは……必要ならするだけですヨ」
「リーシェン。終わったかー?」
シビルが上から声をかける。
「はい。完全に予想した通りの場所に来たので、完全に不意打ちで仕留められましタ」
「それはよかった。汚い仕事をさせたな」
「護衛ですノデ。これからも来るのですか?」
「一週間後には、三人組で来るらしい。その時は、ライナスとシャロンにも戦ってもらうことになるだろう」
「承知しまシタ」
しばらくは暗殺者との戦いが続きそうだった。
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