臆病
シビルは声をかけると同時に、男の脇腹に蹴りを放つ。男はそのまま壁に叩き付けられる。
「なっ……なぜばれた⁉ シビルウウウウ!」
男は憎しみに溢れた声を上げる。
「俺のスキルを忘れたか、カルロ」
そう。俺の命を狙っていたのは、カルロである。
二人とも殺されたと聞いた時、俺は違和感を感じたのだ。エンデは馬鹿ではない。おそらく自分の死期を察していたのだろう。息子だけでも逃がしたのでは、と考えたのだ。
メーティスに聞きすぐに生存を確認した俺は、カルロからの復讐についても予測していた。
「やっぱりあるよなあ、隠し通路。当主の寝室にない訳がない。俺もお前の立場なら隠し通路から命を狙うだろう」
俺はそう言って、カルロが現れた隠し通路に目を向ける。
カルロは立ち上がると、にやりと笑う。
「お前、なに余裕こいてるんだ? 気付いていたら部下を呼んでおけばいいものを! その愚かさがお前を殺すんだよおお!」
カルロは剣を持ち襲い掛かって来る。
俺はそれを躱すと、蹴りを放つ。空靴で強化された蹴りはカルロを大きく吹き飛ばした。
小さくうめき声をあげるカルロ。
俺はすぐさま矢を生み出すと、弓に番える。
「勝てるから呼ばなかったんだよ、カルロ」
俺は淡々と答える。
カルロは僅かに怯えを見せると、顔を背けた。
「エンデを殺したのは俺じゃない、バーナビーだ。お前も知っているだろう?」
それを聞いたカルロは舌打ちをする。
「うるせえ、うるせえ、うるせえ! お前のせいでクロノスを失って、その結果殺されたんだ! お前さえいなければ、父さんは死ななかったんだ!」
血走った目で叫ぶ。
なぜクロノスが失われたのかも覚えていないらしい。
「お前が、愚かにもパンクハット領を攻めなければ……生きていたかもしれないな」
「最後も……父さんは自分が殺されるだろうことを知って、俺を直前で逃がしてくれたんだ。父さんもすぐに逃げるって、言ってたのに、最後まで館に……」
カルロの目から大粒の涙が零れる。
おそらく自分さえ殺されれば、カルロにまでは執拗に追われないと思ったのだろう。死体は出てると聞いたから、替え玉まで用意して。周到な男だ。
「そうか……良い父だったな」
「そうだ! だから、お前を殺して俺は無念を晴らさないといけないんだよ!」
カルロは構えもなにもなくただ不格好に襲い掛かってきた。
「はあ……」
俺は溜息を吐くと、生み出した矢の矢じり部分を消し去り、腹部に放つ。
見事に腹部に命中すると、カルロの骨が鈍い音を奏で、吹き飛んだ。
俺はぐったりしたカルロの胸倉を掴む。
「馬鹿野郎! 現実を見ろ! お前のオヤジは庇ってくれるはずの上司に殺されたんだ! 俺は、お前もエンデも殺さなかった。お前はただ、バーナビーに剣を向けるのが怖いだけだ。怖いから……狙えそうな俺を狙って、溜飲をさげようとしているだけだ」
カルロの顔が絶望に歪む。その目からは涙がとめどなく流れていた。
「分かってる……分かってるさ。俺が臆病なだけだってのは……誰よりもよおおおお!」
カルロは叫んだ。
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