ただじゃない
小さな要塞のような、他と比べても立派な建物が建っている。
バーナビー公爵の屋敷である。多くの護衛が屋敷を守る中、ある一室でバーナビーと男が話していた。
「シビルの処遇ですが、いかがなさいますか?」
「子飼いの暗殺者を向かわせろ。何人使っても構わん」
「承知しました。精鋭を向かわせます」
「証拠は絶対に残すな。儂の表の顔に迷惑がかかる」
「勿論です」
一室の扉にノックの音が突然響く。男の警戒心が上がるも、それをバーナビーが制した。
扉が開くと、そこには可愛らしい少女が顔を出す。
「あっ! お爺ちゃん、みいつけた!」
少女は嬉しそうに笑う。
その後ろからは、その母がすぐさま顔を出す。
「こらっ! お爺ちゃんは仕事で忙しいんだから邪魔しないの! すみません……」
「なに、いいんだ。おいで、セリル」
バーナビーは笑顔で両手を広げる。セリルと呼ばれた少女はそのままバーナビーの胸に飛び込んだ。
「どうしたんだ、セリル」
「さっきお庭でお爺ちゃんのためにお花の冠を作ったの!」
そう言って、セリルはバーナビーの頭に花の冠を乗せる。
載せられたバーナビーはくしゃりと顔を歪ませて、セリルの頭を撫でた。
「嬉しいなあ。似合うかい?」
「うん! 可愛いよ!」
「そうか、そうか。嬉しいよ」
「お爺ちゃん、さっき怖い顔してなかった? 何かあったの?」
「いや、たいしたことはないよ。ただ猫に引っ掻かれてね。しっかり躾けてあげないと、と考えていたのさ」
「そうなんだ~。あんまり猫さんに酷いことしちゃだめだよ?」
少女は心配そうに顔を傾げる。
「分かってるよ、セリル」
「セリル。お爺ちゃんはお仕事中なんだからそろそろ行くわよ。あっ、ウィンストンさん。この間頂いた石鹸、とっても綺麗になって良かったわ」
母から声をかけられた男は、頭を下げる。
「それは良かったです。これからもウィンストン商会を御贔屓に」
「勿論ですわ。行くわよ」
「お爺ちゃん、バイバーイ!」
セリルは母に連れられ、扉の向こうに消えていった。
「では手筈通りに頼むぞ」
「かしこまりました。では、これで失礼します。表の仕事をあまりサボる訳にもいきませんので」
男はそう言って、消えていった。
ウィンストンとは男の表の顔である。ウィンストン商会は実際に存在もする商会だが、実情はバーナビーと裏組織を繋げるパイプとなる組織だった。
本名はコックチャック。
ローデルを牛耳る三大ファミリーを収めるバーナビーの組織のナンバーツー。
それがコックチャックだった。
「これで殺せるか。奴がどれほどのものか、図らせてもらおうか」
コックチャックが去った後、バーナビーは静かに呟いた。
 
月だけが町を照らす真夜中。周囲は皆寝静まっていた。
シビルの屋敷とて、例外ではなかった。護衛達が随所を警備、巡回している。
だが、ある男はその警備を全てすり抜けて、シビルの寝室に向かっていた。
男は誰にも気づかれること無く、シビルの寝室の中に入ることに成功する。
男は狂気に溢れた血走った目で、膨らんだシビルのベッドをみつめると、その剣を振り下ろした。
男の剣は確かに何かを貫いた。だが、その感触に違和感を感じたのだ。
男は疑問を拭い捨てるようにもう一度剣を高く上げる。
「ベッドもただじゃないんでね。辞めてくれるか?」
男は背後から突然声をかけられ、驚いた顔で振り向いた。
そこには殺したはずであったシビルが立っていた。
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