昇格
その様子を見ていたメロウが口を開く。
「そういえば、敵国やったねえ。エスターさん」
「ああ。できれば戦いたくない相手だ」
「あの人に勝てるとも思えんのやけど」
「痛いところを突くね、君は」
俺も通常の戦い方では勝ち目がないと思っている。
まあ、そもそも戦いたくはない。師匠に弓は引けないのだ。
 
俺はその後、詰め所で今までのことを簡単に説明する。
「にわかには信じがたいですが……分かりました。帝都から予め指示が入っておりまして。もし、シビルさんが戻ったら、帝都に来るように伝えるようにと。叙勲があるそうです」
「承知しました」
おっ? 遂に出世か。だいぶん頑張ったからな。準男爵位くらい貰えないかね。
メーティスに聞けば、分かるんだけどそれを聞くのは野暮ってもんだろう。
俺は帝都に向かった。
 
 
久しぶりの帝都である。結構頑張ったが、再び皇帝直々の叙勲とは胸が熱い。
とはいえ、既に帝都に着いてから三日も待たされている。暇以外の感情が無い。
メーティス曰く、今日らしいので服装もしっかり決めている。
「シビル様、お時間です」
再び俺は謁見の間へ向かった。
 
 
謁見の間に居た貴族たちは、前回より少ない。ヘルクが居ないからだろうか。
俺は前に進むと、跪いて頭を下げる。
「久しぶりだな、シビル。顔を上げよ」
俺はしばらく顔を下げた後、ようやく上げる。
「前回からの叙勲からあまり日も空いていないのに、再びの成果。帝国にも良い人材が芽吹いていることを心より嬉しく思う」
「はっ! これからも帝国のために誠心誠意、戦うつもりです」
「余の息子もシビル、お前が助けてくれたようだな。父として礼を言おう。大臣、功を読み上げよ」
「はい。帝国軍所属シビル。先ほどのハルカ共和国戦では右翼の一員として、いくつもの大隊長を打ち破り、敵左翼軍大将を共同で討ち取った。その後、敵の策を看破し、第二王子を救出し敵の総大将エスター・コルクから和睦を引き出した」
大臣の言葉に周囲がどよめきを見せる。
「まだ小隊長だと聞いていたが、そこまで活躍していたとは」
「第二王子救出を小隊で成し遂げたと聞いている」
「右翼軍の戦略は奴が立てたとも」
貴族達も俺を見て、思い思いに話している。
「そして、その後和睦の条件として、エスター・コルクと共に大魔境に赴き、幻と言われているアルデド麦を獲ってきたと聞いている。そのことに違いはないか?」
「はい。獲って参りました」
それを聞いて、更にどよめきが広がる。
「なっ!? あれは空想上の物では無かったのか? どんな荒地でも芽吹くと言われるアルデド麦、本当にあったのか?」
「大魔境から戻ってきたなど、信じられん……。あそこは覚醒者を何人も送り込んでの探索チームが全滅したほどの地獄の地のはずだ」
「奴はそこまで実力があったのか……!」
「静まれ」
陛下の一言で再び、沈黙が支配する。
「大魔境の開拓は、人間の悲願であることは間違いない。アルデド麦は出せるか?」
「はっ」
俺はマジックバッグからアルデド麦を出す。金色に輝くアルデド麦は、一目見ただけで普通の麦と違うことが分かる。
「これが……分かるか?」
陛下が隣の学者風の男に尋ねる。
「アルデド麦の実物は全く出回っていないので断言できかねますが……。この溢れる魔力に、金色に輝く姿。昔語られていたアルデド麦の特徴と一致します。可能性は高いかと」
「なるほど。真実の可能性は高いということか。これは国が預かる。良いな?」
「はい。お受け取り下さい」
俺は大袋六つを出したが、残り四つは出していない。全て国に取られてたまるかよ。
「良い返事だ。大魔境はどうであった、英雄よ?」
「正直……地獄でした。もう行きたくはないですね」
俺の言葉を聞き、陛下は噴き出す。
「ははっ! 正直な奴だ。まあ、そうだろうな。大魔境の開拓も勿論、軍からの命令だ。それは功として評価されるべきである。よって、シビル、お主に男爵位を授ける! そして、帝国騎士団としての階級として、大隊長の昇格させる!」
陛下の言葉に、周囲は大声を上げる。
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