お世話になりました
「おいおい、大魔境に行って女拾って来てるぞあいつ……」
「余裕すぎだろ……。英雄、色を好むってのは本当なんだな」
「確かに可愛い亜人だけど、大魔境という地獄でも女を探すなんてどれだけ余裕なんだ」
と後ろの兵士達が口々に話している。大変な誤解が生じている。非常に遺憾である。
「な、なるほど……まあ。シビルさんがその人の身柄を保証するなら大丈夫ですよ。軽くお話だけは聞いてよろしいですかな? 帝都に報告せねばなりません」
「私は大丈夫ですが、エスターさんは時間がありません。彼だけ先に出てもらうことは可能ですか?」
「エスターさんは我が国の方ではありませんので、シビルさんがいれば大丈夫ですよ。別れの挨拶もあるでしょう。終わったら、詰所にお越しください。そちらで待っておりますよ」
中年は笑顔で言うと、兵士を連れて詰所に去っていった。
「そう言うことらしいので、後は私が。今までお世話になりました、エスターさん。あなたが居なければ、私は戻っては来れなかったでしょう」
俺はエスターさんに深々と頭を下げる。本心からの言葉だった。これからは敵同士だが、それでも尊敬できる人だった。
「俺も世話になったな。お前が居なきゃ、アルデド麦まではたどり着けなかっただろう」
「空靴ですが、お返ししますね」
名残惜しいが仕方あるまい。いつか金を溜めて同じものを買おう。
「お前にやるよ。アルデド麦までの案内代だ。いや、一人前になった弟子への贈り物って奴だな」
そう言って、エスターさんは笑う。
「いいんですか? 億単位の品物でしょう?」
「それが無けりゃ、お前覚醒者とはとてもじゃねえが渡り合えねえぜ? 素の身体能力自体は低いんだからな」
痛いところを突かれた。これが無ければ、覚醒者の速度にはついていけないのだ。
「そうですね。師匠の心遣い、有難く受け取っておきます」
「次会う時は戦場かもしれねえな。その時は、手加減しねえぜ?」
「俺は手加減してあげますよ」
「生意気言いやがって!」
エスターさんに頭を掴まれる。力が強すぎる。
「駄目ですって! 覚醒者の力で頭掴んだら死んじゃうから!」
俺の言葉を聞き、手を放すと笑う。
「冗談だよ。達者でやれよ、わが弟子よ」
エスターさんは笑いながら背を向けて手を振る。
「お世話になりました、師匠」
俺はエスターさんが去るまで頭を下げ続けた。
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