認めよう
(俺は一体何を見ているんだ? 幻覚か?)
ハイランドグリズリーに襲われ、腕を失ったリーダー格の男は、必死で村の中を逃亡していた。その先で見た目の前の光景を信じることができなかった。
自分が最近馬鹿にしていた貧弱な人間の男が、族長すら倒せなかったキンググリズリーを翻弄していたのだ。
その男は空を縦横無尽に飛び周り、キンググリズリーの攻撃を全て躱し、反撃の一撃で敵の手を一本潰した。
(まるで未来でも読めるかのように動きやがる! あいつはいったい何者なんだ!? キンググリズリーとすら互角に戦えるあいつに比べて俺は……)
リーダー格の男は、シビルと自分の格の違いをはっきりと感じ、ただ呆然と立ち尽くしていた。
 
 
 
 
殺意を纏ったキンググリズリーは、より一層速い動きで、俺に襲い掛かる。
その鋭い一撃は一撃でも当たればあの世逝きだろう。
俺は攻撃を躱しながらも隙を探す。
腕が三本に減った分、連撃の隙が僅かにできている。攻撃に合わせて俺は矢を放つ。
その一撃は腹部の怪我を負っていた部分に突き刺さる。
全身が魔力に覆われているうえに、鋼のような黒毛に守られているため、攻撃が通る場所は殆どない。
俺はただ、奴の攻撃を躱し続ける。攻撃速度自体は奴の方が俺より速い。未来を見て、ぎりぎり対応できるレベルだ。
奴との命がけのダンスは数分に及んだ。
「お前、ただの雑魚じゃねえな。どうやら、俺が馬鹿だったらしい。敵の強さを見誤るなんてな」
キンググリズリーが冷静に言葉を続ける。
「お前を敵と、認めよう。本気で殺る」
奴の目が充血する。奴の全身から力が漲っているのを感じる。
油断してくれてた方が良かったのに。
俺はそう思いながらも、僅かに笑う。
奴の一撃は明らかに今までより鋭い。怒り任せの攻撃が、俺の仕留めるための一撃に変わる。
お前は強かったよ。最初から、そうしていれば。そして、連戦で無ければお前の勝ちだったかもしれないな。
鋭くなったはずの奴の動きが鈍り始める。大振りの一撃を放った奴は、ぐらりと崩れ落ちる。
「何を……した?」
キンググリズリーは己の不調を感じ、俺を睨みつける。
「ようやく回ったのか。スイセンダチュラ。大魔境で最も猛毒な花の毒だ」
キンググリズリーはその言葉を聞き、叫ぶ。
「あの時か!」
俺が腹部に撃ち込んだ矢にはそれが塗られていた。俺の矢の一撃で、腹部に傷つけることは難しかっただろう。
おそらく族長の一撃で傷を負っていたのだ。
そして残念ながら俺には未来が見えている。
『三秒後、キンググリズリーは口を開いて大技を出す?』
『イエス』
俺はその情報をもとに、渾身の魔力を込める。この技は特別製でな。まだ時間がかかるんだ。
その数秒を作るために、毒を盛らせてもらった。
俺の構えた矢は、真紅のように赤く燃え上がる。全てを焼き尽くす、煌龍の如く。
「付与矢・【煌龍】」
矢は龍を模った炎を纏い、奴の頭部に向かって放たれる。
そう、お前は次の瞬間、口を開ける。
「熊王ノ咆哮」
矢が当たる直前に、奴も渾身の大技のために口を開く。口を開けて咆哮を放つまでに一瞬のタイムラグがある。
炎を纏った矢は、奴の口内に入り込みそのまま貫いた。
 
煌龍に貫かれた頭部は業火に包まれる。頭部を失ったキンググリズリーはそのまま全身まで焼かれ、地面に倒れ込む。
もう二度と動くことはなかった。
相性もあるだろうが、俺の力はS級にも通じる。その事実に俺は小さく喜んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!
評価ボタンはモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
 





