蠅が
二十分ほど前、俺は住処としていた洞窟の前で今日の予定について考えていた。
メーティスが、こちらに来る魔物を感知する。
こちらを目指して一直線に走って来る。中々奇妙な動きだ。俺は警戒心を高める。
だが、森から顔を出したのは俺も知っている魔物の姿だった。
「父熊じゃないか!」
シロの父である父熊である。だが、その腹部には深い傷を負っており、重傷である。
父熊は俺を見つけると、ただ南を指さす。
「グア……」
父熊は南を指さすと役目を終えたとばかりに地面に倒れ込んだ。
「おいおい、どういうことだ?」
エスターさんも父熊の謎の行動に首を傾げる。
熊兎は馬鹿ではない。明らかに俺に何かを伝えたかったのだ。
南には……メリー族の村がある。そして、明らかに何者かに襲われた父熊の傷。
「メロウの身に何かあったのか?」
俺は即座にその答えに辿り着く。
族長が? だが、メーティスの話では、メリー族は二人を傷つけることは無かったはず。
『メロウが危ない?』
『イエス』
『メリー族の村が魔物に襲われている?』
『イエス』
ゆっくり考えている時間は無さそうだ。
「父熊さん、怪我も深いだろうに伝えてくれてありがとう。もう少し、治療は待っててくれよ。エスターさん、村が魔物に襲われています。メロウが危ない。俺は向かいます!」
俺はそれだけ告げると、空靴の出力を最大にして森を駆けた。
「お前がやったのか? そんな貧弱な体で我等に勝てると思ったのか?」
超巨大な熊のうち一体が、見くびったように言い放つ。
俺は目の前に居る二匹がトップであることを感じ取る。この圧力、S級であることは間違いない。
「試してみろよ」
俺は煽るように笑う。
俺の後ろから、走って来る気配を感じた。
「おい、俺を置いていくんじゃねえよ! ん? キンググリズリーか」
背後からやってきたのは置いてきたエスターさんである。キンググリズリーを見て即座に顔色が変わる。
「俺が一匹受け持とう。怪我してる方は、お前がやれ」
「勿論」
俺の言葉を聞いて、虚ろな目をしていたメロウが叫ぶ。
「あかん! こいつらほんまに強いんや! シビル、逃げえ! このままじゃシビルも……死んでしまう……」
最後はかすれた声でメロウが呟く。
「大丈夫。そのために、今まで修行してきたんだからな」
俺はそう言うと、一匹のキンググリズリーに集中する。
「先ほどの男より、よほど弱い男がほざくか! 一瞬で殺してやる!」
怪我をしているキンググリズリーの四本腕の爪が煌々と輝くと、その爪で襲い掛かってきた。
疾風。
それほど奴の攻撃は速く、鋭かった。
だが、俺はその攻撃を、全て難なく躱す。
次は左上の手で振り下ろし。次は右下の手で水平の振り。その後は、噛みつき。
未来が完全に読み切り、それに合わせて動く。
俺はちらりと、横を見るとエスターさんがもう一匹と戦っていた。あちらは任せてよさそうだな。
全くあたらない俺に奴は苛立ったように歯を食いしばる。
どうやら、体が明らかに弱い俺に翻弄されているのが相当頭にきているようだ。
「お前みたいな雑魚になぜ、当たらねえ。動きも俺の方が速いのに! 当たりさえすれば……!」
「なんだ。雑魚の人間一人すら殺せないのか?」
俺は煽りながらも、既に敵の背中側に移動するべく飛翔する。
なぜなら次の敵の攻撃は、四本腕を同時に振り抜き巨大な斬撃を飛ばす技だからだ。
「爪四閃」
四本の爪から同時に放たれる斬撃は、地面を、周囲を全て消し飛ばす。俺は矢を引き絞ると、奴の動きに合わせて放つ。
「付与矢・【迅雷】」
その矢は奴の右側の掌を貫いた。
やはり、かなり硬いな。鋼のような黒毛の無い掌を狙ったが、大きなダメージは入っていないようだ。
だが、奴の苛立ちを増幅させるには十分だったようだ。
「この……蠅があああああああああああ!」
キンググリズリーは掌を見た後、憎々し気に叫んだ。
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