慟哭
ジルは大きく腹部を抉られるも、念動波で再びハイランドグリズリーを吹き飛ばした。バランスを崩したジルが膝をつくも、左手でなんとか体を起こそうとしていた。致命傷なのは、メロウにも一目で分かる。
「お父さん、動いたらあかん!」
狼狽するメロウを見て、ジルはにっこりと笑う。
「この程度、かすり傷だ。昔はこれくらいよく負ったもんだ」
「何言うてんの! これ以上動いたら死んでしまう! 私が、私が戦うから!」
メロウは震えながらもジルと倒れたハイランドグリズリーの間に立つ。
「大丈夫だ、メロウ」
そう言って、ジルはメロウを後ろから優しく抱きしめる。
「何してんの、こんな時に!」
「昔はよくこうやって抱きしめてたもんだけど、すっかり少なくなったな」
そう言って、ジルはメロウの頭を撫でる。
「なんで今そんなこと言って! もうええから! 休んでて。そうじゃないと……死んでまう……」
メロウの目から涙が零れる。
「死ぬもんか……。お父さんの強いところ、見せてやるからな」
ジルはそう言うと、立ち上がる。
ハイランドグリズリーもジルを睨むと、襲い掛かる。
怒り狂ったハイランドグリズリーは四本腕の爪で連撃を放つ。
ジルは透明な壁でそれを防ぐ。いくら攻撃を重ねてもその壁が揺らぐことは決してない。
「効かんわ! その程度の攻撃などな!」
ジルは壁ごと全身に一気に距離を詰める。
ジルの念動力が、ハイランドグリズリーの首元に放たれる。
首を絞められていることを感じ取ったハイランドグリズリーの顔が恐怖に染まる。
「ゴアア……」
僅かな悲鳴が口から絞り出される。だが、ジルの攻撃が緩められることはない。
「メロウを泣かせるんじゃねえよ」
次の瞬間、ハイランドグリズリーの首は百八十度回転し、巨体は地面に沈んだ。
それと同時に、ジルもバランスを崩す。
「お父さん!」
メロウが悲鳴のような声で、ジルの元へ駆けよった。
「お父さん、強かっただろ?」
ジルは、笑いながら言う。
「うん、めっちゃ強かったで……誰よりも、格好良かった」
「そうだろう。へへ、すまねえなあ。一緒に行けそうにもねえ。だが、まあ俺みたいな五月蠅いのが居ねえほうがのびのびと出ていけ――」
「ちゃう! お父さんと、行きたかったんや……。それじゃないと、意味あらへん! 私な、毎日怪我して帰ってくるお父さんが心配やったんや。だから外の世界に出られたら……お父さんも平和に過ごせるって……思ってたんや。お父さん死んだら、意味あらへんやん……あほぉ」
メロウは玉のような大粒の涙を流しながら、消え入るような声で言った。
「そうだったんか。お前は昔から優しい子だったもんな。お前は外に出て、俺の分も生きろ。お前なら、きっと外でもやっていける。だから、いつかメリー族が普通に外で生きていける世界を……」
ジルの目が虚ろになっていく。
「いやや! 死なんでや! お父さん? お父さん! ねえ!」
メロウはジルに必死で呼びかける。だが、返事は返ってこなかった。
「いやや……いや。いやああああああああああああああああああああああ!」
メロウの慟哭が、ただ響き渡った。
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