逃げるぞ
ジルは牢屋の中から、外の混乱を感じ取っていた。
「何かあったのか?」
「明らかおかしいでこれ! 魔物に侵入されたんちゃうん?」
「馬鹿言え。そんなこと、ここ十年以上なかったことだ。だが……」
だが、牢屋を覆っていたルークの結界が消えていた。それはルークがこちらに構っていられない程の状況であることを示していた。
ジルがここを出ることを決意した瞬間、牢屋の壁が爆ぜる。
「きゃあああ!」
砕けた壁の外から牢屋の中に入ってきたのは、ハイランドグリズリー。しかも二体だ。
「え? 魔物?」
突然の出来事に腰を抜かしたメロウは、反射的に手を翳す。
「念動波!」
メロウは手加減など、微塵もしていない。だが、威力が足りなかった。
ハイランドグリズリーは僅かに後ろに動かされるも、そのまま前進する。
「あかん……効かへん……」
メロウは巨大なハイランドグリズリーの迫力に、動くことすらできなかった。
その鋭利な爪がメロウに襲い掛かる。
「うちの娘に何してくれてんじゃあ!」
ジルがメロウとハイランドグリズリーの間に入り、透明な壁を展開する。
金属が、何かにぶつかったような音が響く。
「お父さん……!」
「心配するな、メロウ。すぐに終わるからな」
ジルはメロウに優しく語り掛けるように告げる。
獲物を食べるのを邪魔されたハイランドグリズリーは吠えると、その四本腕でジルに襲い掛かる。
ジルはドーム状に壁を展開させ、その攻撃を全て受け止める。
もう一匹も同様に壁を殴りつける。
A級魔物の一撃は軽くない。少しずつ、消耗していく魔力にジルは汗をかく。
不安そうにジルを見つめるメロウに、ジルは笑顔で返す。
「大丈夫だ。すぐ蹴散らして、逃げるぞ!」
ジルは右手に魔力を溜めると、壁を消す。そしてすぐさま右手から念動波を放った。渾身の念動波を受けた一匹は大きく吹き飛ばされた。
(これで一対一!)
ジルは残ったもう一匹に接近戦を挑む。
「念動力」
基本的にメリー族の念動力は距離が近いほど、範囲が狭いほど威力が上がる。ジルはこの状況で勝負をかけにいったのだ。
ハイランドグリズリーの首に力を込める。
首の骨が軋む音が響く。
「がああ!」
ジルの叫びと共に、ハイランドグリズリーの首がへし折れた。
(あと、一匹!)
ジルはもう一匹の方向へ振り替える。だが、もう一匹はメロウを狙い走っていた。
「させるかよ!」
ジルはメロウを守ろうと、体を動かす。
その瞬間、ハイランドグリズリーは一瞬で体の向きを変える。
ジルの元へだ。
(誘われた……!)
ハイランドグリズリーの牙が、ジルの腹部に深く貫いた。
「お父さん⁉」
メロウの悲鳴が、村へ悲しく響き渡った。
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