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どうかされましたかお嬢さん?

イヴは領主が率いる騎士団の施設に居た。先ほどシビルから聞いた事実をデルクール軍に伝えるためだ。


「危機察知系のスキルを持つ友人が、グランクロコダイルを筆頭とした魔物の群れが、デルクールを二日後に襲うことを予知しました。このままでは危険です。すぐに隣町と国に救援の要請を」


 だが、イヴから話を聞いたデルクール軍の兵士の反応は芳しくなかった。兵士はまだ若く、二十代前半ほどだろうか。赤い髪を全て後ろになで上げるオールバックにしている。


「そもそも、情報は君の知り合いのスキルだけなんだろ? そんな良く分からないスキルの情報をうのみにして、騎士団を動かす事はできない。当たり前だろう。君は騙されたんだよ」


 呆れたように言う。


「確かにこの場で証明は難しいかもしれません。ですが対処を誤るとデルクールの滅亡にも関わります。念のために対策だけでも……」


「我らデルクール軍はたとえグランクロコダイルが現れても負けることなどない。帝国騎士団である貴方から見たら弱く見えるかもしれないがな」


「そ、そんなことありません……」


 帝国騎士団と地方の領主軍であるデルクール軍の仲は良くはなかった。それは今まで赴任してきた帝国騎士団の騎士の態度が原因であった。勿論イヴは対等に接していたが。


「なら、口出しは止めて貰おう。万が一、本当に出た場合はデルクール軍の雄姿をお見せしよう」


「分かりました。失礼いたします」


 これ以上の説得は無理と判断したイヴはおとなしく礼をすると、席を立った。




 イヴが去った後、先ほどの会話を見ていた男の同僚が、オールバックの男に尋ねる。


「いいのか?」


「別にいいよ。帝国騎士団だからって、言う事聞いてやる必要はない。だいたい俺は皇帝直下の奴等は嫌いなんだ。すぐこっちを見下しやがるし」


「だが、本当だったら……」


「馬鹿言うな。あの女の気を引こうとした馬鹿が嘘ついたんだろ。見てくれだけはいいから、あの女を連れ去ろうと嘘並べたのさ。ベッカー様には伝えなくていい」


 ベッカーとはデルクールを統治する貴族の名である。


「ならいいんだが」


 結局イヴの言葉が、ベッカーに届くことは無かった。運が悪いことに、老人がレッドクロコダイルに池の近くで噛み殺されたという情報はここと違う施設に届いていた。その施設にイヴが話を持って行っていれば何か変わったかもしれない。





 イヴは施設から出た後、フラフラとあてもなくさ迷いどこかの階段に座る。その顔は絶望に染まっていた。


「シビルのスキルは本物なのは間違いない。どうしよう、きっと本当にグランクロコダイルが襲ってくる。私だけじゃどうしていいか分からないよ。けど、領民を見捨てるなんてできないし。泣いてちゃダメよね。私がずっと頑張っていれば、お母様だって認めてくれるはず。そしたらお父様ももう一度私を抱きしめて…… 」


 そう言って、涙を流すイヴ。イヴはシビルに話していなかったが、庶子の子だった。イヴの父は確かに伯爵だが、入り婿でノースガルド夫人側が力を持っていた。その父が使用人との子を作ってしまった。

 それがイヴだ。引き取られはしたものの、ノースガルド夫人は浮気相手の子であるイブを憎んでおり、邪魔騎士団に放り込んだ。そして嫌がらせのため辺境の地であるデルクールに左遷した。


 騎士団に入ってからは一度もノースガルド領に帰っていない。自分が頑張っていればいつか必ずノースガルド夫人も自分を認めてくれるだろう、とただ信じて鍛錬をしていた。




 涙を流すイヴに声がかかる。


「どうかされましたかお嬢さん? 私でよければ相談に乗りますよ?」


 その声はイヴの聞いたことのある声だった。イヴは顔を上げる。


「シ、シビル!? なんでまだここにいるの? 速く逃げないと! だってグラン、クロコダイルが……」


「言っただろう? イヴだけじゃ勝てない魔物が出た時、今度は俺が助けるって」


 シビルはにっこりと笑い、手を伸ばす。イヴは笑いながら、その手を取った。


「もう……私より弱いのに。格好いいね。やっぱり男の子なんだ」


「当り前じゃないか。この町を襲う命知らずの馬鹿に、人の強さを教えてやろう」


 シビルはまだ諦めていない。たとえメーティスに勝てないと言われたとしても、男が立ち向かわない理由にはならなかった。

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