じゃあな
村の中は、地獄のような有様であった。メリー族と、ハイランドグリズリーの死体がそこかしこに転がっている。
形勢はハイランドグリズリー側が優勢だった。
(接近戦は賢明とはいえんな。遠距離から仕留める!)
ルークは魔力を手に宿すと、両手から念動力を放つ。
キンググリズリーは、自らの体に突然圧力がかかったことを瞬時に感じ取る。
「 熊王ノ鎧」
キンググリズリーの全身が魔力に包まれ一気に硬化する。鉄すら砕くほどの圧力が既にかかっているにも関わらず、キンググリズリーは気にすることも無く歩を進める。
キンググリズリーの四本の手から生える爪が、魔力を帯び煌々と輝く。魔力により伸びた爪はルークに危険を感じさせる。
(あれは……まずいな。まともに食らうと、一撃で殺される)
キンググリズリーは四本の爪で、ルークに襲い掛かる。
ルークはすぐさま念力で体を浮かし回避行動をとるも、キンググリズリーはその巨体からは考えられないほど俊敏であった。
白く輝く爪が縦横無尽にルークを狙う。
ルークは素早い連撃を無駄のない動きで躱す。だが、その一撃の一つが遂にルークの直前まで迫る。
「透明壁」
ルークは左腕で透明な壁を生み出し、爪での一撃を流す。
「念動槍」
そして同時に右腕から生み出した見えない槍をキンググリズリーに叩き込んだ。
その槍は確かにキンググリズリーの腹部に突き刺さり、見えない鎧を貫いた。
だが、深くはない。僅かに腹部から血が漏れた程度だ。
キンググリズリーは笑みを消すと口を開く。
ルークは刹那、本能的に全力で上へ跳んだ。歴戦の雄としての経験が体を動かしたのだ。
「熊王ノ咆哮」
キンググリズリーから放たれたのは、咆哮だった。極限まで練り込まれた魔力を纏った咆哮は、全てを消し飛ばす竜巻となる。
その一撃は村も、塀も、人も全てを消し飛ばした。
キンググリズリーの前方、数十メートルは何一つ残っていない。
「やってくれる……!」
ルークはその被害の大きさに舌打ちをすると、手を翳し念動波を放つ。キンググリズリーは輝く爪で見えない波動を斬り裂く。 二手に分かれた波動は、キンググリズリーの後方を大きく抉る。
ルークは額に小さく汗をかく。
(このまま長時間戦っていては他の者が持たん……。全力の一撃で、一瞬で決める!)
ルークの目がまっすぐにキンググリズリーを捉える。静かな、決意のこもった目だった。
ルークの目が充血し始める。鼻からは血がどろりと垂れた。
その双眸が捉えているものは、敵のみ。
キンググリズリーはルークの様子から渾身の一撃が放たれることを感じ、一気に距離を取るべき走る。
「神念力」
ルークから大きく距離をとったにも関わらず、キンググリズリーの体がぴたりと止まる。
キンググリズリーの全身に圧迫するような凄まじい力が加わる。
キンググリズリーは想像を超える力に驚きを隠せなかった。
熊王ノ鎧を使用しているにも関わらず、体が全く動かせない。全身がその圧力に締め付けられ小さく圧縮されていく。
キンググリズリーの全身がメシメシと音を立て始める。
ルークの負担も大きく、顔中が汗に濡れているも目は死んでいない。
ルークは左手を翳したまま、右手を上げる。
「終わりだ……王よ。念動槍」
ルークは動きを止めたまま、頭部目掛けて透明な槍を放つ。
だが、次の瞬間、大きく血を吐いたのはルークだった。
「なっ……⁉」
ルークの背中を、輝く爪が斬り裂いた。
ルークの背を斬り裂いたのは、キンググリズリー。だが、長とは違うもう一匹。キンググリズリーは、二匹居た。
「兄者、いつまで手こずってんだ」
その個体も流暢に言葉を発した。長に負けず劣らずの巨体。その右目には大きな一本線の傷が刻まれている。
神念力が直前で解けたため、長も念動槍を躱していた。
「二匹、居たのか……!」
ルークが、倒れながらも叫ぶ。
彼が与えられたのは致命傷だ。もう少しで生命は終わりを告げるだろう。
ルークは、消え入りそうな意識の中で後悔していた。
(俺が間違っていたのか? 人間を恐れて、大魔境に引きこもったことは間違っていたのか? ここなら、皆を守れると思っていたのに。私は何も守れないのか……ああ。すまないな、ジル。こんなことなら、お前を快く送ってやれば……)
「俺達は双子だ。じゃあな」
長の爪が、ルークを貫いた。
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