追われる人生
「昔、メリー族ってのは、デミ聖国お抱えの種族だったのさ。全盛期は結構な地位にもついていたって聞いている。メリー族の念動力ってのは便利でな。証拠も残さず、人を消すこともできるって訳だ。一族でデミ聖国の暗部を担っていた。だが、先代の聖女が、いきなりの方針転換を発表した。まるでメリー族なんて居なかったかのように言い始めた。散々メリー族を使っておいて、勝手にやったことだといい放った。メリー族は暗殺者集団だと、国家全体で指名手配されたんだ。そして、メリー族は国を追われた。全滅したと思ったが、まさか大魔境で生き残ってたとはな」
「そんなことが……。散々世話になっておいて……そんなこと許される訳ないじゃないですか! 挙句の果てには、罪を擦り付けるなんて、なんて非道な……」
俺はデミ聖国のあまりの非道さに怒りを堪えられなかった。他人の俺ですらそうなのだ。散々国のためにと、汚れ仕事をさせられていたメリー族が、逆賊だと襲われた時の怒りは想像を絶するものだろう。
聞いていたジルさんは、僅かに肩を震わせていた。
「エスターさんの言う通り、私達は国を追われてここにやってきたんだ。最後、私達の首は一千万Gの懸賞金が付いた。犯罪者としてね。今はどうかは知らないが……どこの国でも懸賞金目当てにメリー族が襲われたのだ。どこにいっても石を投げられる生活をしたことはあるかい? あれは辛いものだ。ここの生活も辛いが……日々追われる生活は本当に辛かった。メロウには、そんな生活はして欲しくなかったんだ」
「そんな事情が……何も知らないのにすみません。やっぱりメロウはそのことは……」
「ああ。何も知らん。メリー族が、人間から犯罪者として扱われているなんて、人の世界に、外の世界に憧れているあの子には言えん。だが、言うべきだったのかもしれんなあ。出てから知るよりはよっぽどましだろう。だが、俺には外の世界に憧れるあの子のキラキラした瞳を曇らせるのが怖かった。俺は情けない男なんだ」
ジルさんは嘲るように言った。
ジルさんなりにメロウを心配しての言動だったのだろう。事情を知ると、皆の対応にも納得がいく。上の者達は皆、人間に迫害されてここに辿り着いた。人間である俺達に、憎悪の目線を飛ばしていたのもそれが原因なのだろう。
「なに、子供の笑顔を守りたかっただけだろう。良い親じゃないですか」
エスターさんが優しく声をかける。
「そう言われると、少しは救われますな」
「どうしたの、エスターさん。らしくないね。子供でも居たんですか?」
「うるせえよ。俺に子供なんて育てられるか」
「生活力皆無ですもんね。メロウ、探してきます」
「シビル君、悪いが頼んだよ。今会ったら、また喧嘩してしまうかもしれないからね。」
ジルさんはそう言って、帰っていった。
俺はメーティスに尋ねながら、メロウの元へ向かう。思ったより遠くまで逃げていたようで、たどり着くまでに時間がかかった。
メロウは大樹の下で、三角座りで俯いていた。俺に気付くと顔を上げて不器用な笑顔を見せる。だが、目元は涙で濡れていた。
「シビルか……。また喧嘩してしもたわ。私はただ安全な所に居て欲しいだけやのに、なんでこんなことになるんやろ」
「メロウ、俺は君の気持ちを尊重する。もし、メロウが本当に出ていきたいのなら俺が全力で協力する。外の世界にも連れて行くし、できる限りその後も手伝おうと思っている。けど、きっとジルさんもメロウのことを心配して言っているんだ。二人はもう少し話し合ってから決めた方がいいね。このまま別れなんて嫌だろう?」
「うん……分かっとる。このままじゃあかんって、ことは」
「メロウに出て欲しくない理由が、ちゃんとジルさんにはあるんだよ。それも聞いて、それから考えても遅くない」
「何か知っとるんか?」
「俺が何か話すのは違う気がするんだ。だから、ジルさんからいつか聞くと良い」
「分かったわ。直接聞く! それにしてもシビルは私に甘いなー。私に惚れたんか? ん? 人間は大きい胸が好きと聞いたことがあるが、これに惚れたんか?」
メロウは笑顔を取り戻すと、突然胸を上げながらこちらを挑発してくる。
それにしても、誰にその情報聞いたんだよ。
「馬鹿なこと言うんじゃないよ」
メロウの頭にチョップを落とす。
「いたー。冗談通じひんなあ」
メロウは頭を抑えながらも、笑っている。
「思ったよりは元気で良かったよ。戻るぞ」
「はいはい。エスコート頼むで? 強くなったんやろ?」
「任せろ」
俺達はメリー族の村へ向かう。
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