逃げ
少しして、美しい金髪を靡かせ歩いているイヴを見つけた。
「イヴ! 今すぐ町を出よう! 二日後昼にグランクロコダイルというB級魔物がこの町を襲ってくる。ここは危険だ!」
俺の切羽詰まった雰囲気を感じ取ったイヴが困惑する。
「えっ? どういうこと? ちゃんと話してくれないと分からないよ」
イブに俺のスキルのこと、魔物達がこの町を襲ってくることを伝えた。イヴはただ俺の話を聞いてくれている。
「俺のスキルが、本当に『神解』か証明して見せる。俺が知らない情報で、イエスかノーで答えられる質問をしてくれないか?」
「えっ? えーっと、私の年齢は十六?」
「イエスだ」
俺の返事を聞いたイヴが驚いた顔をする。
「私の実家は、グランデル子爵家?」
「ノー」
「ノースガルド伯爵家?」
「イエス」
俺の返事を聞いたイヴがこのことも知ってるんだ、と呟く。
「私は左太ももに小さなほくろがある?」
イヴは少し顔を赤くしながらも尋ねる。
「イエスだ」
「じゃあ、私に恋人はいる?」
顔を真っ赤にしながらイヴは俺に尋ねる。
「えっ……の、ノー」
それを聞いたイヴが顔を膨らませる。
「合ってるけどー! 断言されると悲しいよ!」
「いや、別にいないだろうって思った訳じゃないから!」
「まあ、私が聞いたんだから、良いんだけど。それにしても本当にイエス、ノーなら何でも分かるんだね。ほくろのことなんて、誰も知らないし。私は信じるよ」
イヴは少し驚くも、信じてくれた。
「ありがとう、イヴ! なら早く逃げ――」
イヴは右掌を俺の前に差し出して、顔を振る。
「ごめんね、シビル。貴方だけ逃げて」
「やっぱりこんな怪しいこといきなり言われても困るよね」
やはり信じてくれてないのだろうか。だが、ここはなんとしても信じて貰わないといけない。
「違うわ。貴方が本当のこと言ってることは全く疑ってなんてない。魔物はきっと来るんだと思う。でも私は逃げられない。騎士団では疎まれて今はこの町に飛ばされてるけど……私は騎士だから。領民が居るのに逃げる訳にはいかないわ」
優しくもはっきりと言われてしまった。
「そっか……」
「シビルは逃げて。せっかく商人として頑張ってるんだから。ここじゃなくてもあなたならやれるわ」
「イヴ……。どうか命だけは。無理だけはしないでくれ」
「ありがとう」
無理をしないとは言わなかった。きっと彼女は命がけで町民を守るんだろう。彼女はそう言う人だ。だが俺は逃げて欲しかった。
無理やり逃がすわけにもいかないので、後ろ髪を引かれつつもイヴと別れ露店に戻った。露店の商品は全て片付けられており、屋台自体も既に分解され片付けられ始めていた。
「おかえり、シビル。はやく用意して、隣町であるダブロンに逃げるわよ。まだ商店の契約をしてなかったのが、幸いだったわ。してたら大損。商品も全部持っていけばいいし、護衛としてディラー達を連れていくわ。既に話はつけてある。夜には出るから。町が破壊されたら、おそらく町民もダブロンに流れ込む。それまでに食料を買い込むわよ」
既に殆どの手続きを終えているらしい。素晴らしい対応の速さだ。
「えっ? ああ、そうだな……」
「なによお、あんたが言ったんだからしっかりしてよ。本当にくるんでしょう?」
「ああ。間違いなく」
自分の言ったことを全く疑ってないことが嬉しかった。
これでいいのか? 俺の心には大きなしこりができている気がした。
だが、俺が残っても何もできないだろう。
「用意終わったら行くわよ」
「ああ……」
俺はネオンに促されるまま、逃げ準備を始める。荷物自体はそう多くないためすぐに終わった。ネオンが借りてきた馬車に商品と、屋台の部品を乗せる。護衛であるディラー達も合流する。
「随分急な話だねえ。まあ俺達は金さえもらえりゃ護衛はしますよ。ダブロンまでよろしく頼むぜ、大将」
「こちらこそよろしくお願いします」
ディラーはまだ俺のスキルには半信半疑だろう。だが、仕事自体はダブロンまでの護衛だ。特に動揺もなく飄々としている。
「じゃあ、もう行くわよ!」
ネオンの号令と共に、俺達はデルクールを出るため馬車を走らせた。
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