滅びるまで
全てを尋ねる時間は無い。俺自身も考え、最適解と思ったもののみを尋ねないと。
「クワアアア!」
ギャングプテラが吠えながら俺を捕食するために大きな口を開けて向かってくる。
『右に逃げるべき?』
『イエス』
右に移動するもすぐさま襲われる。
『右に避けるべき?』
『ノー』
『左に避けるべき?』
『イエス』
敵の爪は、俺の右側を狙っているようだ。
俺は左に跳び、一撃を躱す。
『今の敵を射貫くべき?』
『イエス』
俺は矢を生み出すとその眉間に撃ち込む。完全に沈黙したギャングプテラが地面に落ちる。
時間を空けることもなく、再び群がって来るギャングプテラ達。駄目だ、逃げ場がない。
『頭上に飛ぶべき?』
『イエス』
俺は空靴を起動させると、上空に舞い上がる。
一撃でも食らったら、おそらく袋叩きにあって死ぬな……。 血走った目でこちらを見て舌なめずりをしていた。
うざってえ奴等だ。完全に捕食する側だと思ってやがるな。
「来いよ……根絶やしにしてやる」
肌がピリピリとひりつくのを感じる。命がけ、綱渡りだろう。
俺は静かに弓を引く。殺し合いの始まりだ。
こちらに向かってくる奴の頭部を射抜く。
『右に居る敵はこちらに襲い掛かって来る?』
『イエス』
『直線距離で?』
『イエス』
俺は右を向き、こちらに飛んできたギャングプテラを見据え、射貫く。
属性付与した魔法矢は駄目だ。魔力を使いすぎる。普通の魔法矢で、全て急所を狙う。
だが、減らない。数が多すぎる。一撃で全てを消し飛ばせるような武器ではない。一体、一体倒しているためだろう。
ああ……段々考えられなくなってきたぞ。
『大丈夫か、相棒? 逃げた方がいいんじゃ……靴さえあれば逃げに徹すれば行けるんじゃねえか? エスターの奴も、本気で殺そうとは思っちゃあいねえよ。きっと』
脳内に心配そうなランドールの声が響く。
『ランドール、このままじゃあ駄目なんだよ。覚醒者やS級魔物と渡り合うつもりなら。生きるか死ぬかの境目でなら、見える気がする。』
『俺は思うんだ。覚醒者って奴等は、どこかで皆地獄を超えてきたんじゃないかって。俺にとっては……それは今だ! だからもう少し付き合え。違う世界をみせてやる!』
『……流石俺の見込んだ相棒だ! 死ぬまで付き合うぜ!』
俺は目の前で襲ってくるギャングプテラ三体を三射で仕留める。
違う一匹が右後ろから襲ってくる。それを僅かに体を動かし躱すと、頭を再度射貫く。
「上から二匹。右から二匹。下から一匹」
俺は、最低限の動きで攻撃を躱し、三射。全て頭部を射貫いた。
「「「ギャウ!」」」
ギャングプテラ達が次々と地面に落下していく。それを見た残りのギャングプテラ達の顔が変わる。ただの獲物を見る目から、敵を見る目だ。
俺はひたすらメーティスに敵の動きを尋ね続ける。これを止めた瞬間、俺はエサになるだろう。
俺はただ、ただ攻撃を避け、射貫き続けた。
段々、思考が加速していく。何も考えなくても、メーティスに尋ねられるように。脳内が膨大な敵の情報で埋まっていく。脳のキャパシティを超えそうなほど。
頭が痛い。鈍い痛みが頭に響く。それと引き換えに、俺はまるで世界を理解したような全能感に包まれる。
今ならなんでも分かるような気がする。
目の前に居る敵全ての動きが手に取るように。
これから右に動くんだろ? そして口を開ける。俺はそこに矢を入れるだけ。
また一匹、地に落ちる。
ただ、この全能感に身を任せた。どちらかが、滅びるまで。
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