冬までに
「後、何キロくらいだ?」
「群生地までは二百キロくらいでしょうか?」
「魔物だらけだし、十日はかかりそうだな。さっさと採取して帰るぞ」
皆が待っている。そう言ってエスターさんは進む。
『半径一キロ以内にS級以上の魔物は居る?』
『イエス』
『五体以上?』
『ノー』
『三体以上?』
『ノー』
『二体?』
『イエス』
『場所は二体とも俺より北側?』
『イエス』
その後も質問を続け、場所を割り出す。
「北北西方向、四百メートル先と、北東方向、七百メートル先にS級が一体ずつです」
「なら鉢合う可能性は低いな。常に調べててくれよ。それも訓練だ」
「了解です」
人間レーダーと言えるだろう。完全に避けることができるかは分からないが、S級以上と会わないだけで危険は随分減る。
俺達は更に大魔境の奥地へ進む。どこまでも。
 
 
メロウと別れて九日。アルデド麦まで後三十キロの所まで来た。
常にメーティスに尋ね続けている生活にも少しずつ慣れてきた。日々移動する魔物達の位置を把握し続けるのは中々困難を極めた。
だが、命がかかっている状況のためか、今では他のことを考えながらもメーティスに尋ねられるようになってきた。
「A級三体と三十秒後に会敵します。まだ回避は可能ですが、どうしますか?」
「いや……その程度なら俺がやろう。お前のお陰で、最近はめっきり戦う数も減ったからな」
前方から現れたのはお馴染みの地獄鶏である。
至る所にいるね、君は。
エスターさんも毎日の戦いで、研ぎ澄まされていたのか初日より動きが良い。あっという間に地獄鶏は殲滅した。
「昼にするか。食えるだろう、こいつ」
『地獄鶏は食用?』
『イエス』
「食べられるようですね。食べますか」
俺もエスターさんに教えられたお陰で慣れた手つきで地獄鶏を解体した。巨大すぎて全て食べきれないのがもったいない。
純粋に焼いて塩をまぶしただけだが、これが美味い。
「いやー! 地獄鶏の肉は本当に美味いな! これで店をしたら絶対売れるぜ」
「大魔境まで素材を獲りに行かないといけないのはハードル高すぎません?」
噛んだ瞬間溢れる肉汁。これより美味い鶏肉を俺は知らない。
俺は温かい肉を齧りながら、体の冷えを感じていた。
段々寒くなってきたように感じる。大魔境も冬は来るのだろうか。
「冬までに帰りたいな」
俺はぽつりとつぶやく。
「俺だってそうだ。明日には辿り着きてえぜ。行くか」
エスターさんが立ち上がる。俺達は先へ進み始めた。
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