守るべき人
「どうしたの? 顔青いよ? そんなダブロンへの仕入れ危ないの? やめておく?」
俺の様子がおかしいことに気付いたネオンが心配してくれる。
「えっ、と。仕入れが危ないんじゃなくて……」
何から説明すればいいか分からない。俺はパニックになった。
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
パニックになっている俺の両肩を掴み、落ち着いた口調でゆっくり話してくれている。その様子を見て俺も落ち着いてきた。
「ネオン、簡潔に言うと、この町が魔物に襲われるようだ。しかもこのままだと陥落する可能性が高い」
「えっ!? どうして仕入れでそんなことが分かったの?」
ネオンも驚くも、さっき落ち着いてと言ってた手前、動揺を隠す。
「二日目以降、常に町を出るのが危険と出た。おそらく二日目以降この町は魔物に襲われ出られなくなる。何に襲われるのかはこれから絞っていく」
「そ、そうね……」
ネオンもそれを聞いて、色々考え始めた。
『襲ってくる魔物はA級以上の魔物?』
『ノー』
『B級の魔物?』
『イエス』
A級じゃないのが不幸中の幸いだが、B級か。この町のトップ冒険者がC級。しかも一組のみ。かなり不味いんだろうな。
『群れで襲ってくる?』
『イエス』
おそらくB級を筆頭とした魔物の群れが大挙するのだろう。
「ネオン、B級魔物らしい」
「B級!? 嘘でしょう? この町にB級魔物に襲われて耐えられる戦力なんてないわよ!? どうして……だけど、まだ時間はある。金も商品も全部持って今すぐ逃げれば……」
ネオンはぶつぶつと呟き始める。
「ちょっと冒険者ギルドに行って、情報を集めてくる」
「わ、分かったわ。私も色々準備しておくから」
すぐさま、冒険者ギルドに向かう。全力疾走でギルドに辿り着くと、勢いよく扉を開ける。少し視線を集めるも、窓口に向かった。
「た、大変だ。魔物が大挙してこの町に来る!」
「ど、どういうことですか? いったいなんの魔物が?」
俺の言葉を聞き、受付嬢が驚きつつも聞き返す。
「それは分からないが……。B級魔物がこの町にやってくるんだ」
「分からないって、どういうことですか? なぜ貴方は分かるんですか?」
途端に受付嬢の俺を見る目が、胡散臭い人を見る目に変わってしまう。パニックで言葉が足りなかった。
「俺のスキルで……分かるんだ。この付近に出るB級に心当たりはないか?」
「デルクール付近にB級なんて強い魔物は出ませんよ。B級なんて王国の軍隊が出てくるレベルです。最後に出たのは五十年以上も前。グランクロコダイルという魔物です。全長八メートル以上で、鋼のような鱗を纏い、四つの目に六本の足。当時は、レッドクロコダイルを大量に連れて町を襲ったようで、大量の被害が出たようですが、最終的には討伐されたと聞いています」
『来るのはグランクロコダイルか?』
『イエス』
「そいつだ! グランクロコダイルが出る!」
「はあ。ですが、目撃情報も無いのに、動いたりできませんよ。スキルで分かるって、危機察知系のスキルですか?」
危機察知系のスキルとは、危険を感じると、肌で感じられるスキルである。冒険者でもたまに持っている者がいるが、その察知範囲は人によって様々だ。
「俺のスキルは『神解』と言って――」
あまり話すつもりは無かったが、メーティスについても受付嬢に説明する。半信半疑ではあるものの、少しは信じてくれたと信じたい。
「固有スキルですか……。上には報告は上げておきます。ですが、そのスキルだけで避難勧告を出したりはできませんよ? 一市民が言う、危険が二日後に来るという情報だけで皆を町から出すなんてできません」
受付嬢の言うことも分かる。俺には信頼がないのだ。だが、このままじゃこの町が危ない。
「魔物が来たら速やかに避難できるように、あらかじめ準備をしておくだけでも違うはずです。どうかよろしくお願いします」
俺は頭を下げる。これ以上言ってもつまみ出されるだけだろう。自分の立場が歯がゆかった。
「分かりました」
冒険者ギルドを出る。何が来るか分かったのは大きいが、避難させることもできないだろう。結局皆を救うことはできそうにない。領主に会うか? そもそも会えるとも思えない。いきなり魔物が来るから町を出ろ。根拠は俺のスキル、なんて怪しすぎる。
俺は皆を救う勇者ではない。
だが、俺が救わないといけない人はいる。ネオンとイヴだ。
「イヴに伝えないと……!」
この時間帯なら、大通り付近を見回りしているはずだ。俺は大通りを走り回り、イヴを探す。
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