ドリグラン
俺はそう言うと、空靴に魔力を込めると全速でシロ達の元へ向かった。
『シロとメロウは生きてる?』
『イエス』
『メロウもテトラマンモスの元へ向かっている?』
『イエス』
メロウもやはり気付いたか。
「見えた!」
俺は体を起こしたテトラマンモスの姿を見て、背筋が凍った。まるで山だ。体を起こしたテトラマンモスの下には白い小さな生き物、シロの姿もあった。
そして更に不幸なことにその巨大な足が小さなシロの元へ降り注ぐのが見えた。
間に合わない!
まだ距離は五十メートル以上ある。俺は自分の足の遅さを呪う。
シロが潰される直前、飛び掛かる何かが俺の目に移る。
「シロッ! 危ない!」
メロウがシロを捕まえ、間一髪降り注ぐ足を躱した。
「た、助かった……」
俺は寿命が縮む思いだった。ほっとしたのもつかの間、テトラマンモスの目はメロウ達を捉えていた。
その巨大な鼻の先がメロウ達に向けられる。底の見えない暗い穴だけがメロウ達を見つめていた。
「あ……あかん……」
メロウは昼に見たあの飛竜の捕食シーンを思い出したのか、青ざめたまま動きが止まる。
「さ、させるか!」
俺はマジックバッグから一つの果物ドリグランを取り出す。取り出した瞬間、俺の顔は大きく歪む。だが、ここは耐えねばならない。
そのまま俺はそれを鼻の穴目掛けて投げる。
ドリグランはそのまま穴にキレイに入っていった。
一瞬、間があった後、テトラマンモスの体が大きく揺れる。
「バオオオオオオオオオオオオオオオ!」
大きな悲鳴が上がる。大きく顔をあげ、四本の鼻を半狂乱で振り回す。
俺が投げた果物ドリグランは悪臭を放つことで有名な果物だ。その臭さは有名でこれを植えるだけで、鼻の良い魔物は来なくなると言われているくらい。だが、人間にも害を与える程の臭いのため、実用性は低いと考えられていた。
臭いのしないマジックバッグだから持ち歩けた品といえる。
「シビル、一体何を投げたんや⁉」
「それは後だ! 逃げるぞ! 速く戻ろう!」
俺の言葉を聞いたシロがメロウの服を小さく掴む。
それを見たメロウは俺の言葉に首を横に振る。
「今ならテトラマンモスも立ち上がっている。進めるんや。私は進みたい……」
「何を言って!」
確かに今、テトラマンモスは立ち上がっており先は見えているが……危険すぎる。今俺達はテトラマンモスの体のすぐ下に居る。
シロは泣きそうな顔でこちらを見つめていた。
『テトラマンモスの下を抜けることはできる?』
『イエス』
ふう……。
「分かったよ!」
俺は再度メロウを抱きかかえる。
『右に避けた方がいい?』
『イエス』
俺は降り注ぐテトラマンモスの踏みつけを横っ飛びで躱す。
「何があったんだ!」
エスターさんが丁度やってきた。
「このまま抜けます!」
「なっ!? ……分かった! 行くぞ!」
俺の一言だけで全てを悟ったエスターさんはすぐさま、道の先を見据えて走り出す。
一方、テトラマンモスは怒りの形相でこちらを見つめている。
「やべえ……めっちゃ怒らせちゃったよ……」
俺目掛けて怒りの踏みつけ連打である。
右、右、左、後ろ、前、前、後ろ。
俺はメーティスに尋ねながら、縦横無尽に躱し続ける。
先ほどのドリグランのお陰か、鼻での吸い込みが無いのがせめてもの救いである。
もう抜けられる。テトラマンモスの下から抜ける直前、テトラマンモスは体を反転させ、巨大な鼻による水平の振り回しが俺達に襲い掛かる。
「あかん! もう終わりやああああ!」
メロウの叫び声が響き渡る。
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