テトラマンモス
翌日、俺達は朝から森の中を進んでいた。
既に歩いて数時間が経過していた。額の汗を腕で拭う。
「そろそろ……だと思うんだが」
『シロの親の群れまで後三キロ以内?』
『イエス』
森をようやく抜け、山に差し掛かる。壁のような岩ばかりが聳え立っている。とてもじゃないが、登れそうにない。
「高いなあ……。どこから向かえばいいん?」
「ガウウ!」
俺が答えるよりも先に、シロがメロウの胸から飛び出すと走り出した。
「シロ! どこへ行くんや!」
シロは全速力でどこかを目指し走る。
「親の匂いを感じ取ったのかも。追おう!」
俺達はシロの後を追う。
ようやくシロに追いついたと思ったら、シロは壁に向かって爪を立てている。
「ガウッ! ガウウッ!」
まだ子供であるシロの爪はその壁を傷つけることはできなかった。
なんかこの壁、変じゃないか? 岩壁でもないし、なんか毛が生えている。
え? 毛?
俺は嫌な予感がして上を見上げる。だが、見えるのは毛に覆われた壁だけだ。
「なんやこれ。ここ付近だけ毛で覆われてるやん。触り心地も良くないし、なんなんやろ?」
呑気に壁に触れるメロウ。
それを横目に俺は静かに尋ねる。
『これは壁じゃなくて魔物?』
『イエス』
はは。そんな予感がしてたんだ。これは壁じゃない。道を全て埋めている巨大な魔物だ。
俺は乾いた笑みを浮かべた。
完全に道が塞がれている。こんな巨大な魔物をどかすことができるのか。今も必死にシロが爪を立てているが、傷一つ付かない。
「エスターさん、メロウ、これは壁じゃない。巨大な魔物だ……」
「はあ? 一体何メートルあるんだよ!? 高さだけで三十メートルはあるぞ!」
エスターさんが上を見ながら叫ぶ。
一方、メロウ。
「え? これ魔物なん? 正体、見せてもらおか! 念動波!」
次の瞬間、メロウは手から見えない衝撃波を放つ。毛で覆われた壁? が大きく凹む。
「え? ちょ? おま⁉ あばばばばばば」
血の気が引いた瞬間である。目が飛び出す仕組みになっているのなら、間違いなく飛び出していただろう。メロウは脳を介さずに行動しているに違いねえ。
「どかんなあ」
「おい、シビル! その馬鹿取り押さえろ!」
「へい!」
すぐさまメロウを取り押さえる。
「なにするんや! こいつ退かさんと、シロが会えへんねんで!」
シャラップ、坊や。親に会う前に、神様に会うことになるだろうが。
俺は恐る恐る壁を見つめるも、動く気配はない。
安堵の溜息を浮かべる。と、次の瞬間、壁に動きがあった。
死んだかもしれん。
俺達が見ていたのはどうやら尻だったようだ。
道を塞いでいたのは巨大なマンモスだった。二本の反りあがっている立派な牙は長さ十メートルを超えており、どんな壁も粉砕できるだろう。
そして、一番大きな特徴は四本の鼻である。一本一本が大樹のような太さだ。
マンモスは大きな瞳で、こちらを無感情に見つめている。
「テ、テトラマンモスだ……。千年生きていると言われている」
エスターさんは、小さく汗をかいていた。
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