野営
包囲網から抜けた後も、安全地帯に移るまで俺達は走り続けた。数十分後、ようやく俺はメロウを地面に下ろした。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
元々体力のない俺である。メロウを抱えたまま走るだけで肺が、全身が悲鳴を上げていた。だが、エスターさんには切り開いてもらわないといけなかったため、俺しか居なかったのだ。
「信じられん。エスターさんは分かるけど、シビルがあんなに速いなんて……」
「凄かろう」
靴のお陰なんですよ、とは言えんな。
「絶対死んだと思ったわ」
「大魔境はいつもあんな感じだ。とてもじゃないが、住むところじゃない」
俺達はその後も、熊兎の群れを目指して歩き続けた。どうやら北西にある山の麓にいるようだ。明日には辿り着くだろう。
日が暮れた頃、俺達はメーティスに尋ねた安全な場所で野営を行う。
「人間界の味付けは美味しいな!」
鳥肉のソテーを食べてご満悦のメロウさんである。ちなみにエスターさんは夕食を食べた後、速攻で眠りに着いた。魔物が出ない限り起こすな、と言っての就寝である。
「村ではどんなものを食べるんだ?」
「魔物の肉とか、果物とかやなあ。それもそれで美味しいんやけどな。シビル達はなんか麦? 探してたんやっけ? 外の世界はそんな食べ物ないん?」
「ないことはないんだが……人が多すぎるんだ」
実際、ローデルは食料はあまり困っては居ない。
「そうなんかあ。私、いつか外の世界に出たいなあ」
「出たらいいじゃないか。ここよりずっと住みやすいぞ」
「メリー族は森から出たらあかんのよ。そういう掟なんや。前、外に出たいって言ったら、めちゃめちゃ怒られたわ。大人は、森の外はもっと恐ろしい化物でいっぱいや言っとる。大魔境を出たら、すぐに死んでしまうって」
「ここより危険な所を探す方が難しいぞ……」
「せやろなあ。夏は暑くてたまらんし、冬なんて全てが凍って住めたもんじゃないでここは。私も薄々分かっとるんよ。大人は嘘言っとるって。お父さんは、危険だからって私を外に出さへん。村の人も、お父さんも嫌いや……」
メロウは悲し気な顔でそう言った。
「メロウにそんな村もう出ろ! って無責任には言えないけどさ。外の世界も良いところだよ。メロウが思っているよりずっとね」
「ありがとうな、シビル。私も無断で出ようとは思ってへんから。大手を振って出て見せるで! 最悪クソオヤジの顔を殴って無理やり出るから問題なしや! 会いたい人もおる。いつか必ず出るで、私は!」
「ああ。ローデル帝国に来たら、よかったら俺の元を尋ねてくれ。パンクハット領に居る。何かあったら助けになるよ」
「……シビルはまず、無事に国に帰るんやで? 大魔境で生き残るにはもやしすぎる」
メロウが心配そうにこちらを見ている。紙装甲なのがばれてやがる! 余裕でメロウ以下の身体能力だからな。
「気を付けます」
俺とメロウは、夜更けまで話をして順番に眠りに着いた。
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