そんなもん分かるかああ!
だが、エスターは不敵に笑う。
「おいおい、何言ってんだ? お前俺が誰だか忘れたのか? ハルカが誇る剣帝だぜ? こいつ程度じゃ相手にもならねぇよ」
エスターはそう言うと、一瞬で地獄鶏へ距離を詰めると、一閃する。
すると、地獄鶏の頭部がゴトリと地面に落ちる。そのまま地獄鶏の体は、地面に倒れ込んだ。
エスターはどや顔でこちらを見ている。剣帝の名は伊達ではなかった。
「すげえ……」
すると、近くの木々からもう一体の地獄鶏が顔を出す。そして死体をみて震え始めた。
「もう一体か」
エスターが剣の柄に手をあてる。
「ドゥルルルルルルルルゥゥゥウウウウウウウ!」
地獄鶏がけたたましい叫び声をあげる。凄まじい音量に俺は耳を押さえた。
だが、地獄鶏の目的は別にあったのだ。
途端に周囲一帯から土を蹴る轟音が響き渡る。
嫌な予感がする。
俺の予感は的中した。
俺達の四方八方に大量の地獄鶏が集まったのだ。
先ほどの雄たけびは、仲間を呼ぶためか。
「仲間呼ばれてんじゃねえかー! こいつ絶対仲間殺したら、群れ全体で復讐するタイプじゃねえかあああ!」
俺はエスターに向かって叫ぶ。
「そんなもん分かるかああああ!」
「何どや顔してたんだよ! ハルカが誇る剣帝なら、全滅させて来いよ!」
「馬鹿言え! 何体居ると思ってんだ! 百は下らねえぞ!」
俺達は恐る恐る周囲を見渡す。勿論殺気満タンである。ですよねー。
「逃げるぞ!」
俺は空靴にありったけの魔力を込める。
『逃げるなら西?』
『ノー』
『逃げるなら東?」
『イエス』
「エスターさん、逃げるなら東だ!」
「分かった!」
俺達は全速力で東へ走る。当然東にも大量の地獄鶏さんがいらっしゃる。
俺は空を蹴り、空へ逃げる。上から逃げるのだ。だが、敵も優しくなかった。トサカに魔力が集中している。赤いトサカが魔力で輝いていた。
「あぶねえぞ!」
エスターがそのニワトリに一撃を浴びせ、僅かに軌道がずれた。
次の瞬間、トサカから光線が放たれた。その光線は俺の顔、三十センチ先を通り抜けていった。
あんなの食らったら一瞬で、消し炭である。
「助かりました!」
俺は空中を蹴り必死で逃げる。魔力を気にしている場合ではない。エスターも必死で走っているようだ。
エスターの前方には五匹の地獄鶏が、殺気を漲らせながら道を塞いでいる。
エスターが剣の柄に手をあてると、魔力が剣に集中していくのが遠目からでも分かった。
「絶閃」
エスターは魔力を纏わせた剣を、水平に振り抜いた。その剣から黒い斬撃が放たれ、巨大なはずの地獄鶏五匹を一閃した。
だが、背後からもエスターを狙い、地獄鶏がその嘴で襲い掛かっていた。
俺は空中で矢を引き絞ると、地獄鶏の目を狙い放つ。
「付与矢・【龍】」
一直線に放たれた矢は、狙い通りエスターに嘴が届く直前に目を射貫く。
「助かった!」
「まだ、後ろから来ます! 一気に逃げ切りましょう!」
背後からは、地獄鶏のトサカから放たれる光線が襲ってくる。まさに地獄だ。
俺は空中から地面に煙玉を放つ。周囲が煙に覆われる。俺は高度を下げ、煙の中に潜る。
「ドゥルルウウ!」
怒りの鳴き声と共に、その龍顔負けの羽を広げ、煙を吹き飛ばす。
「まじかよ……!」
「このまま逃げるぞ。今度捕まったら、逃げ切れねえぞ!」
エスターの言葉通り、今捕まると命は無さそうだ。俺は魔力を使い切る覚悟で、ひたすら空を走った。
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