理解していなかった
「これは?」
「空靴と言われるダンジョン深部から出たレア物だ。これはお前に向いている。魔力を込めることで、速く走れる」
俺は空靴を履いてみる。流石はダンジョン産というべきか、履いた瞬間、俺の足にぴったりにサイズが変化した。
そして、恐る恐る魔力を込める。
一瞬、足が無くなったのか、と錯覚した。それほど、足から重みが消えた。軽く走ってみる。
速い!
俺の足じゃないみたいに。今までの数倍ではきかない速さだ。
俺は驚きの表情で、不思議な靴を見つめていた。その様子をエスターはにやにやとみている。
「すげえだろ。それは俺のコレクションの一つなんだがよ。それ一つで、余裕で数億を超える」
「凄い……です」
「だが、そいつが凄いのはここからよ。魔力を込めて、地面を蹴って跳んでみろ。そして、空中を再度蹴ってみな」
「空中を蹴る?」
「いいから」
何を言ってるんだ? 俺は首を傾げながらも、足に魔力を込め、地面を思い切り蹴る。
ふわっ、と足に羽が生えたかのように軽やかに俺は大きく空中に跳んだ。
驚きつつも、言われた通り空中を蹴ろうとする。
空中にまるで見えない板があるかのように、俺の足は何かを捉えた。そしてそれを蹴り再度空中を跳んだ。
「えっ?」
俺は驚きを隠せず、呆けた顔で再度空中を跳んだのだ。飛んだと言ってもいい。
そしてそのまま落下した。
「グエッ!」
「あはははははは! 初めてにしちゃ上出来だ! 空靴は空中を走ることができる靴なのさ。空中移動は魔力を多く使うから、普段は使わねえほうがいいがな。慣れれば、空中に留まることも可能だ」
エスターは落下した俺を見ながら今日一番の笑顔を見せてくる。奴の上に落ちてやれば良かった。
「なるほど、理解しました。紙耐久の俺のために、逃げるための武器をくれたってことですね」
「そう言うことだ。全てから守ってやる、なんて言えねえよ。俺の先輩も、昔大魔境で死んだんだ。少しでも生存率をあげねえとな。死んでもらっちゃあ困る訳よ」
「有難く借りておきます」
俺は空靴を見つめながら言葉を返す。これは素晴らしい靴だ。魔力消費はきついが……俺は他の者より身体能力が著しく低い。速度でも相手にならなかったのだ。
だが、これなら……!
「後、これももっとけ。マジックバッグだ。小さいがないよりはましだろう。食料も一ヶ月分くらいは入れておいた」
「色々ありがとうございます」
「それほど、やべえ場所って訳だ。時間もねえ。地獄へ行こうか」
エスターはそう言って笑った。
「交通手形も確認できました。通っていただいて大丈夫です」
国境沿いの門を管理している検兵は怪しい者を見るかのような目でこちらを見つめている。
正気か、とでも言いたそうな顔である。俺だって行きたくねえよ。
鋼鉄で出来た重厚な扉が、兵士数人がかりで少しずつ開く。
門の先には、妖しい森が広がっていた。重苦しく感じるのは、俺が怯えているのか、そこに棲む魔物達のせいなのか。
生えている木、一本一本が普通の木より大きい。なぜなんだ。
「ギュイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
森から魔物の断末魔の声が聞こえる。俺の体が一気に強張る。
「緊張するな。大魔境は奥に行くほど魔物の強さが上がると聞いている。国境付近だと、そこまで化物にも出会わんだろう。俺が守ってやる。剣帝が居るんだ、どんと構えてろ」
エスターが俺の緊張を察したのか、肩を叩きながら笑う。有難い。ここは素直に先輩に従った方が良さそうだ。
「ありがとうございます」
俺は覚悟を決めて大魔境に足を踏み入れた。
まだ、正確に大魔境というものを理解していなかったのだ。ここは人が踏み入れるような場所ではなかったのだ。
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